п»ї 本物が「偽物」の街…… 『知的財産:この財産価値不明な代物』第13回 | ニュース屋台村

本物が「偽物」の街……
『知的財産:この財産価値不明な代物』第13回

7月 12日 2018年 経済

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森下賢樹(もりした・さかき)

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プライムワークス国際特許事務所代表弁理士。パナソニック勤務の後、シンクタンクで情報科学の世界的な学者の発明を産業化。弁理士業の傍ら、100%植物由来の樹脂ベンチャー、ラストメッセージ配信のITベンチャーなどを並行して推進。「地球と人にやさしさを」が仕事のテーマ。

◆日本メーカーの苦しみ

中国を中心とするアジアでの模倣品(もほうひん)問題はいまも大きな国際問題です。

私は神戸のアシックスの方とご縁があり、お話を伺ったことがあります。同社の靴は中国で模倣品が数十種類もあります。マークの線が一本多いもの、線の位置やバランスが少し違うもの、ASICSの文字列を少し変えたものなど、あらゆる変形が街にあふれています。同社だけでなく、著名な製品をもつ企業は対策に多大な時間と労力をかけています。

現地における典型的な対策は、現地の法律事務所に「模倣品パトロール」を依頼することから始まります。模倣品が見つかれば工場を突き止めます。そこまでわかれば、中国の場合、行政機関も模倣品追放に協力してくれます。

工場を見つけるには追跡も必要で、もはや探偵です。危険な目にあうこともあるそうです。こうした一連の仕事は、マイナスをなんとかゼロに近づけるためのもので、がんばってもゼロですから、心も体も疲弊(ひへい)します。

◆模倣品告発サイト

アシックスの方に以下の提案したところ、「ぜひお願いします」と言われました。概要を説明します。はやりですから、ブロックチェーンと仮想通貨のトークンも組み合わせ、ビジネスモデルにしてみました。

① 「模倣品撲滅」のための事業会社を作り、発見された模倣品を登録していく「告発サイト」を作ります。

② 事業会社はトークンを発行し、模倣に悩む企業その他投資家が購入します。

③ 事業会社は現地の一般市民に探偵業務を任せます。その対価がトークンです。

④ 探偵(一般市民)が模倣品を発見したら、場所や写真を事業会社へ通知します。会社はその情報をブロックチェーンへ登録するとともに、告発サイトに掲載します(ブロックチェーンは証拠保全に利用)。

⑤ 模倣品の工場まで突き止めた探偵には、トークンが多く支払われます。さらに、行政などの協力でその模倣品が消滅すれば「成功報酬」のトークンも支払われます。

⑥ トークンは模倣に悩む企業の正規品と交換ができます。つまり、企業は模倣品を駆逐しながら、正規品を広めていきます。

⑦ 事業会社は、トークンの将来性と有用性を高めるために事業を拡張し、ICO(仮想通貨技術を使った資金調達)などを検討します。

以上が一連の流れです。時間があって優秀な若者には面白いアルバイトであり、企業も法律事務所を使うよりコストダウンが可能です。模倣者からすれば、すぐ隣にいる知り合いが探偵かもしれません。模倣の抑止効果があると思います。市民を利用した内部告発制度です。

もっと大事なのは、オールジャパンでこの取り組みをする、ということです。模倣品に苦しむ企業が共同でこの事業会社を作り、どんどん模倣品を「告発サイト」に載せるとします。このサイトは世界中が見ます。どんな偽物があるのだろう、というのは、興味を惹(ひ)きますから。

ビュー数が臨界点を越えれば、模倣品が溢(あふ)れる国の政府も無視できなくなり、模倣品撲滅に動くでしょう。過去、中国政府は外国の世論に押され、不法コピーCDの問屋街を一掃した事実があります。「外国から見ている」という状況を作ることがポイントだと思います。

などと説明をしたのは、誰かこれ、やってほしいな、という気持ちからなのですが……。

◆小さい頃から履いている

アシックスの方が中国の地方都市に行かれたときのエピソードです。いたるところに偽物の靴があり、若者が履いています。話しかけてみたそうです。

──これが本物だよ。きみの靴は、うちの製品の模倣品だよ。

そのあと、予想外の答えが返ってきました。

──あなたのもっている靴は、少し変ですね。私は小さな頃からこのメーカーの靴を履いています。これが本物です。あなたの靴こそ偽物です。

そう言って笑ったと。心から自分の靴が本物と信じていて、疑いを差し挟む余地もないそうです。

「衝撃ですよ。生まれてからずっと、偽物だけに囲まれて育ってきたんですよ、彼らは……」

模倣品問題の根深さに気が遠くなりそうなお話でした。

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