荷風の時間
『教授Hの乾坤一冊』第13回

2月 07日 2014年 文化

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教授H

大学教授。専門は環境経済学および理論経済学。政府の審議会の委員なども務める。「知性は、セクシーだ」が口癖。趣味は鉄道(車両形式オタク)。

先日、ふとある新聞のコラムに目が止まった。有名な女性バイオリニストが書いているコラムで、「待てない」という見出しだった。待つことが苦手な彼女は、レストランで料理が来るまでの時間が長いのが耐えられない。ヘアサロンでシャンプーやカットが遅いのが耐えられない。彼女にとって物事は速やかに進まなければならない。現代流のバイオリニストだ。

そんな人に薦めたい本がある。それは、高橋英夫著の『文人荷風抄』(岩波書店、2013年)である。文豪永井荷風の大著『断腸亭日乗』から3つの要素を抜き出し、荷風を描き出している。忙しい現代人の心を癒やすのにもってこいの本だ。この本を読むと荷風がいかに時間を豊かに使ったかがわかるからだ。そして読者もその「おこぼれ」に預かることができる。
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新しい農業スタイルが見えてきた!
『教授Hの乾坤一冊』第12回

12月 27日 2013年 文化

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教授H

大学教授。専門は環境経済学および理論経済学。政府の審議会の委員なども務める。「知性は、セクシーだ」が口癖。趣味は鉄道(車両形式オタク)。

初めから告白してしまうと、これから紹介する本の著者は、私のゼミの卒業生である。このことを書こうかどうか迷った。だが後からフェイスブックなどで関係が知れて、「なーんだ、だから書評に取り上げたのか」などと言われたら面白くない。私は著者を知っていようがいまいが、良い本と思えば『ニュース屋台村』に取り上げる、それまでのことなのだ。

さてその本とは、久松達央著の『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書、2013年)である。著者は、一度は大手繊維メーカーに就職したものの有機農業に一大転身を図るというユニークな経歴の持ち主だ。ずぶの素人から農業を始め、今では立派な主業農家として自立した。茨城県土浦市を拠点に年間50品目以上の有機野菜を栽培し、自らが代表を務める「久松農園」の会員に直販している。ビジネスは大はやり、大成功だ。
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日本を破壊するブラック企業
『教授Hの乾坤一冊』第11回

12月 06日 2013年 文化

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大学教授。専門は環境経済学および理論経済学。政府の審議会の委員なども務める。「知性は、セクシーだ」が口癖。趣味は鉄道(車両形式オタク)。

ある日新聞広告を見ていたら目に留まったのがこれから紹介する本、今野晴貴著『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(文藝春秋、2012年)である。自分の無知をさらすようで誠に恥ずかしいのだが、それまで私は「ブラック企業」という言葉を知らなかった。一体どんな企業だろうと思って大学生協に注文し、手にしてようやくその意味するところがわかったわけである。

ゼミの学生に聞いたらもちろん全員がこの言葉を知っていた。なかには、本書にも出てくる居酒屋チェーン店Wの名前をブラック企業の代表例として声に出して挙げる学生もいた。就職活動をする学生は、ブラック企業に就職してしまったら命取りになるから、知らないはずがないのである。そんなことも知らないでいたとは、私は実にのんきな教師だ。
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日本の農業を破壊したのは誰か
『教授Hの乾坤一冊』第10回

11月 22日 2013年 文化

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大学教授。専門は環境経済学および理論経済学。政府の審議会の委員なども務める。「知性は、セクシーだ」が口癖。趣味は鉄道(車両形式オタク)。

日本の農業は謎だらけだ。たとえば1990年代、ガット・ウルグアイラウンド(関税および貿易に関する一般協定の多角的貿易交渉)の農業交渉で日本がオレンジ・牛肉の自由化に踏み切ったとき、「これでミカン農家も畜産農家も壊滅的打撃を受ける」という声高な批判があった。私も大いに危惧したものだ。しかしそのようなことは起きなかった。今でもおいしいミカンを食べられるし、和牛に至っては世界から注目されている。批判の根拠がなんだったのか今もって謎だ。

もう1つの大きな謎は米だ。米の輸入自由化には各層から反対が巻き起こり、「1粒たりとも米入れず」などという戦争中のようなプロパガンダさえ掲げられた。輸入を最小限に抑えるために、現在では輸入米には800%近い関税がかかっている。その結果どうなったのか。米作のプロ化は遅々として進まないばかりか、農業就労者は高齢化するばかりだ。1961年の農業基本法が目指した農業のプロ化、すなわち主業農家育成が遅れているのが米作なのである。プロ化の進んだ畜産とは大違いだ。なぜなのだろうか。
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新しい民主主義社会をめざして
『教授Hの乾坤一冊』第9回

11月 08日 2013年 文化

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大学教授。専門は環境経済学および理論経済学。政府の審議会の委員なども務める。「知性は、セクシーだ」が口癖。趣味は鉄道(車両形式オタク)。

行政は一度決定した計画を変えない。計画が大昔作られたもので、現状がどんなに当初と変わっていても、そのまま実行しようとする。そんな例はどこにでもある。こうして、大多数の市民にとって不必要であるばかりか迷惑でもあるような道路や施設が平然と造られる。市民はそれを半ばあきらめをもって受け入れる。私もその一人である。

しかし、國分功一郎著『来るべき民主主義 小平市都道328号線と近代政治哲学の諸問題』(幻冬舎新書、2013年)を読んで少し考え方を変えるようになった。市民の声をなんらかの形で行政に反映させないと、不必要な建築物や道路で溢れかえるばかりでなく、民主主義の根幹が脅かされる可能性があることに気づかされたからである。
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一歩踏み出すために
『教授Hの乾坤一冊』第8回

10月 25日 2013年 文化

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大学教授。専門は環境経済学および理論経済学。政府の審議会の委員なども務める。「知性は、セクシーだ」が口癖。趣味は鉄道(車両形式オタク)。

私は本を選ぶ際にちょっとしたルールを自分に課している。それは、今はやっている本、ましてやベストセラーは読まないというルールである。仮に読むとしても、流行が廃れてからゆっくり読む。世評に促されたような形で読むのは潔くないという妙な美意識があるからかもしれない。

だが、かたくなに守ってきたこの禁をとうとう破ることになった。ベストセラーであるシェリル・サンドバーグ/著、村井章子/訳の『LEAN IN 女性、仕事、リーダーへの意欲』(日本経済新聞出版社、2013年)を読んだのである。何気なく手にし眺めているうちに、結局最後まで目を通すことになった。ちょっと読み始めたら、つい夢中になって、やめられなくなってしまったのだ。
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人は何を記憶し、何を忘れるか
『教授Hの乾坤一冊』第7回

10月 11日 2013年 文化

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大学教授。専門は環境経済学および理論経済学。政府の審議会の委員なども務める。「知性は、セクシーだ」が口癖。趣味は鉄道(車両形式オタク)。

この8月のことだ。イスラエルの元高官が広島と長崎の平和記念式典についてとんでもないコメントをフェイスブックに書き込み、物議をかもした。2つの都市への原爆投下は「日本による侵略行為の報い」であり、犠牲者追悼の平和記念式典は「独善的でうんざりだ」というのだ。この問題外の発言に日本政府は抗議し、この高官は停職となっているという。

この部分だけを見ると、「問題外」と一刀両断に切り捨てて当然のコメントだ。だが、コメントの最後にどうしても切り捨てられない部分がある。それは、「日本が追悼すべき相手は、(日本の)帝国主義や大量虐殺の犠牲となった中国人、韓国人、フィリピン人らだ」という一文である。
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科学と現代
『教授Hの乾坤一冊』第6回

9月 27日 2013年 文化

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教授H

大学教授。専門は環境経済学および理論経済学。政府の審議会の委員なども務める。「知性は、セクシーだ」が口癖。趣味は鉄道(車両形式オタク)。

いきなり私事で恐縮だが、私は旧大山(おおやま)街道(現在の国道246号線)沿いにある神奈川県のとある町に住んでいる。古い宿場町で、現在では都市化が進んでいるもののまだまだ田舎の雰囲気のある町である。この辺りは地形が独特で、少し歩くとすぐわかるように高台と低地とが交互に入り組んだように現れる。時にはだらだら坂を登るハメになるが、歩く気分は悪くない。

そんな地理的条件のせいだろうか、かろうじて開発を逃れた緑や水辺の生物相は豊かだ。うっそうと葦が茂る谷戸(やと)では、カエルの大合唱が楽しめる。トンボもたくさんいて、時にはオニヤンマも飛んで来る。運がいい場合には、キジやカワセミを見ることもできる。
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炭素の恩恵
『教授Hの乾坤一冊』第5回

9月 13日 2013年 文化

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大学教授。専門は環境経済学および理論経済学。政府の審議会の委員なども務める。「知性は、セクシーだ」が口癖。趣味は鉄道(車両形式オタク)。

炭素と聞いて人は何を思い浮かべるだろうか。炭(すみ)、石炭、そしてダイヤモンド。最近では気候変動(地球温暖化)の原因である二酸化炭素がすぐに頭に浮かぶだろう。ダイヤモンドに縁の深い人はそう多くはないだろうけれど、炭や石炭そしてそれを燃やすことによって発生する二酸化炭素はほとんどの人々の生活に何らかのかかわりを持っている。ただし、それ以上思い浮かべようとしても、なかなか難しいのではないかと思う。

ところがよく考えてみると、炭素は人間と深いかかわりをもっていることがわかってくる。何せ私たちの身体を作っている有機物は、炭素と水素と酸素の結合したものだ。人間をはじめとする動物は、水と有機物を摂取することによってはじめて生きながらえることができる。
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経済とは何のためにあるのか
『教授Hの乾坤一冊』第4回

8月 30日 2013年 文化

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大学教授。専門は環境経済学および理論経済学。政府の審議会の委員なども務める。「知性は、セクシーだ」が口癖。趣味は鉄道(車両形式オタク)。

ご記憶の方も多いと思うが、昔「くたばれGNP」という言葉がはやった。大手新聞の連載記事のタイトルになり、人々の共感を大いに誘ったのだ。1970年のことである。当時日本経済は高度経済成長の末期にあたり、公害や働き過ぎ、所得格差などのさまざまな歪みがあらわになった時期であった。多くの人が、もうこれ以上経済成長を追い求めても幸せにはなれないのではないか、GNP(国民総生産)うんぬんで経済を語っても意味がないのではないか、と思い始めていたのだ。

あれから40年以上が経った。用語がGNPからGDP(国内総生産)に変わったものの、同じ問いは依然として生きている。GDPの成長を追い求めることによって人間は幸せになれるのだろうか。この問いにはっきり「ノー」と答えたのが、ジョン・デ・グラーフ/デイヴィッド・K・バトカーの『経済成長って、本当に必要なの?』(早川書房、2013年)である。
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