「鉄の女」に見る女性のリーダーシップ
『国際派会計士の独り言』第36回

6月 24日 2019年 経済

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内村 治(うちむら・おさむ)

photoオーストラリアおよび香港で中国ファームの経営執行役含め30年近く大手国際会計事務所のパートナーを務めた。現在は中国・深?の会計事務所の顧問などを務めている。オーストラリア勅許会計士。

2012年に公開された映画「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙:The Iron Lady 」を最近、映画チャンネルで見ました。

1980年代に英国の首相として、辣腕(らつわん)を振るい、今の英国にとって「中興の祖」とも言える政治家の晩年を、回想を交えながら描いた珠玉の作品です。認知症を患っても凛々(りり)しく知的な女性という主役を演じたメリル・ストリープは、この作品で3回目のアカデミー主演女優賞を受賞しています。また、苦楽を共にした夫デニスと双子の子供という家族、彼女を支えてくれた人たちをこよなく愛したというプライベートな一面も知りました。教育科学相として出席した閣議中に停電があった時に、暗闇で彼女だけ懐中電灯を携帯していて会議を続けたという、庶民感覚を持ち続けたという逸話もあります。

BREXITとメイ首相の辞任

サッチャー氏は、英国という「偉大な歴史のある国を衰退から守る」ためには自分の信念を曲げずにやるべきことは実行するという姿勢を貫き、アルゼンチンとのフォークランド紛争時の軍隊出動とそれによる勝利、宗教的対立なども絡んだ根深い北アイルランド問題に対する強い態度、労働組合改革、通信や電力などの公共サービス事業の民営化や規制緩和などを推し進めました。そして、その強い政治姿勢と対応で、ロシアが命名したという「鉄の女」という異名を得るまでに至りました。彼女の政治家としての功績には色々な意見があるものの、彼女はつい最近までの英国の繁栄という新時代に導いたと言っても過言ではないと思います。

また、女性によるリーダーシップを強く印象付けました。メルケル独首相はサッチャー氏について「彼女は後進の女性たちに前例を作ってくれた」と語っています。

英国政治史上、2人目の女性首相であるテリーザ・メイ氏は、食料雑貨商の娘という出自の宰相だったサッチャー氏と似たような庶民出身で、金融業界から政治家に転身しました。2016年にキャメロン前首相によって進められた国民投票で突きつけられた「BREXIT」(英国の欧州連合離脱)という難しい命題を前に、欧州連合(EU)と何度も交渉する中で迷走を続け、与党内での信任を失ってとうとう、6月に与党党首を辞任しました。7月にも党内で選ばれる新首相が、BREXITの難題の引き継ぐことになります。

ナチス・ドイツの侵攻と脅威を毅然とはねつけ第2次世界大戦を勝利に導いたチャーチル氏、そして「鉄の女」と呼ばれたサッチャー氏。英国の近世史上、共に強いリーダーシップを発揮して難局からの脱出に成功した宰相です。この2人に対し、メイ氏はおそらく失意の中で職を失することになりましたが、やはりBREXITという難題の交渉対応の局面で、周りを囲い込める適切なリーダーシップと、国会の中でのサポートが必要だったのかも知れません。

サッチャー氏は1979年の首相就任時に、首相官邸のあるロンドン・ダウニング街10番地の前で、アッシジの聖フランチェスコの言葉を引用して「不一致があれば、私たちは調和をもたらしたい。誤りがあれば、私たちは真実をもたらしたい。疑問があれば、私たちは信頼をもたらしたい。絶望があれば、私たちは希望をもたらしたい」と語りました。当時の英国の経済や社会などの惨状(いわゆるイギリス病)を目の当たりにしての発言だとみられます。

これから新たに英国の首相となる人物には、ポピュリズム先行や独りよがりの対応で更なる混乱を招くことなく、国民にとって希望と調和をもたらす形で最良のBREXITの「解」を導き出してほしいと思います。

◆ダイバーシティーが強みの源泉の一つ

世界有数のビジネススクールの一つであるスイスのIMD(International Institute for Management Development)は5月28日に発表した2019年版の「世界競争力ランキング」で、シンガポールが第1位、香港が第2位としました。どちらも先進技術への対応や事業を行うための効率性などとともに、労働力の水準と多様性などが評価されたのだと思います。どちらも都市国家(香港は中国の特別行政区ですが)であり、機能性が高いことは理解できますが、それらのほかに多民族や男女機会均等などのダイバーシティー(多様性)がやはりその強みの源泉の一つだと思います。

シンガポールの場合、政府傘下の投資会社テマセク・ホールディングスの女性CEO(最高経営責任者)であるホー・チン氏(リー・シェンロン首相夫人)や同国初の女性大統領であるマレー系のハリマ・ヤコブ氏などがすぐに頭に浮かびますが、中華系、インド系、マレー系、欧米系など多様な文化を背景にした人材とともに、女性のリーダーシップが特筆されると思います。世界有数の金融機関クレディスイス銀行は「シンガポールの経済界の女性のリーダーシップはまだ十分ではない」と発表していますが、同国内の企業で女性CEOの割合は全体の15%を占めています。

ちなみに、2019年版の「世界競争力ランキング」で日本は30位にランクを下げました。インフラや経済力ではそれなりの評価を得ていますが、国際競争力を高める処方箋(せん)として、外国人労働者の受け入れに関する制度改革など多文化社会への対応や男女機会均等法などの法整備と適切な運用、さらにはソフト面で女性のリーダーシップを強力に推し進めるような、より具体的な施策も必要だと思います。

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