п»ї 成功体験でしくじった安倍政権 『山田厚史の地球は丸くない』第152回 | ニュース屋台村

成功体験でしくじった安倍政権
『山田厚史の地球は丸くない』第152回

11月 29日 2019年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

これでは官僚のなり手はなくなる。国会審議を見て、そう思った。

「桜を見る会」をめぐる政府側答弁である。この問題の口火を切った11月8日の参議院予算委員会での共産党・田村智子議員の質問は、周到な調査に裏づけられた事実の確認を求めるものだった。花見に参加した首相の選挙区の市長や地方議員の活動報告や、総理特別補佐官(当時)だった萩生田光一(はぎうだ・こういち)文部科学大臣らがインターネットで発信した公開情報をもとに現場の実態を描いて見せた。

◆強者が陥る罠

この時点で、首相側は既に詰んでいた。政府行事の「花見」は安倍後援会が地元の有権者を接待する恒例行事になっていたことは明らかだった。「私としたことが……。申し訳ない」と潔く謝れば、こんなことにはならなかっただろう。

自分のやったことを甘く見た。「招待したのは功績・功労のあった人たち」という建前は崩さず、早めの対応で「招待の基準が曖昧(あいまい)だから来年度は中止」と打ち出せば火は消せる、と判断したのだろう。

何も悪いことをしていないから、「私の決断で中止する」と、えらそうに名誉ある撤退を演出した。筋書きを押し通すためには「招待者リスト」が邪魔だった。

森友・加計学園の疑惑封じ込めで効果があった「証拠隠蔽(いんぺい)」が繰り返されたと疑われるやり口である。

権力を持つとわがままが出る。「安倍1強」で野党に対抗勢力はなく、党内にライバルはいない。わが世の春である。首相主催なのだから、後援会の方々を呼ぶくらい自由にできる、と勘違いしたのだろう。「慢心」をいさめる側近がいないことが安倍政権の弱さである。政権が長期化すると、側近は首相との近さを競い合う「忠誠争い」を始める。耳に痛い忠告などする人物は外れる。強者が陥る罠(わな)に安倍政権は嵌(はま)った。

◆「政治のあり方」が問われている

「官邸主導」は微妙な二極体制で成り立っている。首相の最側近は首相補佐官の今井尚哉(いまい・たかや)氏。第一次安倍内閣で経済産業省から首相秘書官として送られた人物で、安倍退陣後も関係を維持していた。アベノミクスの振り付けや、消費税増税の延期から対策まで、今井氏が中心になって立案した。首相のブレーンで、経産省の先輩である長谷川栄一内閣広報官兼首相補佐官と組んでメディア対策も担ってきた。

もう一つの勢力が、菅義偉(すが・よしひで)官房長官をいただくグループだ。こちらの側近は、事務担当の官房副長官である杉田和博氏。内閣人事局長を兼務する警察官僚である。権力の切り回しをする官房長官と公安・スキャンダル情報を握る警察官僚。霞が関・永田町に睨(にら)みを利かせる菅・杉田ラインで安倍政権の危機管理を担ってきた。

政権の致命傷になりかけた森友学園や加計学園の疑惑を抑え込み、うそ・改ざんを使ってでも、決定的な証拠さえなければ国会は突破できる、という成功体験 を持ってしまった。

誰の招待で誰が参加したのか。一番大事な「招待者名簿」が、共産党議員が資料要求した1時間後にシュレッダーに掛けられた。政府側は何を問われても「資料がないのでわからない」と逃げ回る。

「国会は、いつまでこんな議論をしているのか」「桜を見る会など些細(ささい)な問題より、国会議員は議論すべき大事な問題がある」という声が上がっている。そんな声が優勢になり、追及が尻すぼみになることを狙っているようだが、政府主催の花見の一件は、民主主義の根幹ともいえる「政治のあり方」を問うている。

◆繰り返される愚行

「信なくば立たず」。政治家が好んで使う。政治は人々の信頼のうえに成り立つ、という言葉だが、現実はどうか。

首相が、あとで取り消すようなうそを国会で繰り返す。

うそでも証拠さえ出てこなければ真実にできる。

都合の悪い証拠は、破棄あるいは改ざんする。

国会で多数を占めれば、首相が答弁に窮する審議は回避できる

危機管理の名の下に、政治家の価値を貶(おとし)める愚行が繰り返されているように思う。

安倍政権は国会で安定多数を占め、その気になればなんでもできる。小選挙区制で国会議員の公認を党総裁が握り、党内の人事権を掌握した。

内閣人事局で官僚人事を握った。内閣情報室が監視カメラやネット監視で個人情報を集める。領収書なしで使える官房機密費、首相直属の会議で許認可事業を差配する。そして予算を握り、補助金や事業の個所付けができる。司法権を恣意(しい)的に使えば、身内の罪を見逃し、政敵を叩くこともできる。権力とそういうものだ。

森友学園の疑惑では、国有地の払い下げをめぐる近畿財務局の値引きや首相夫人が介在を記録した行政の内部文書が改ざんされた。本庁の局長が主導して行い、任に当たった国家公務員が自殺に追い込まれた。

身勝手な振る舞いをする権力者、隠蔽・改ざんの現場には公務員がいる。今回も構図は同じだ。こんなことをするために彼らは国家公務員になったのではない。

政府主催の花見を安倍事務所の一大イベントにし、後援会の人たちを饗応(きょうおう)した。国政全体から見れば予算5200万円の些細な事業である。

小さなイベントとその処理に安倍政治が結晶している。だから罪深い。

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