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憲法9条、旗竿はまだ握っている
『山田厚史の地球は丸くない』第24回

6月 27日 2014年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

公明党の山口那津男代表が憲法解釈の変更で集団的自衛権は可能と表明したことを伝える紙面に、「軍にODA解禁」という大見出しが踊っていた。援助政策の大転換である。

民生支援に限定されていた政府の途上国援助(ODA)を軍事目的にも広げる、という提言が外務省の有識者懇談会(座長=薬師寺泰蔵・慶大名誉教授)から出された。サッカーのワールドカップ(W杯)に人々が釘付けになっている間に、国家の暴走に拍車がかった。

◆解釈変更は憲法を無視した政権の暴走

集団的自衛権は同盟国が攻撃を受けた時、いっしょになって反撃する権利だ。多くの場合、それは口実にすぎなかった。ソ連によるアフガニスタン侵攻も米国のベトナム戦争も「集団的自衛権」で侵略が始まった。

憲法はどう解釈しても海外での戦闘に日本が参加することはできない。どうしてもやりたいなら憲法改正しかない、というのが政府の見解だった。

安倍首相は憲法改正をもくろんだが無理と分かると、「憲法解釈を変えればいい」と言いだした。憲法は、国家運営の大原則で、政府を縛るものだ。政治家や公務員は、憲法に従って仕事をすることを義務付けている。都合の悪いルールは、解釈で勝手に変えてしまう。それは憲法を無視することであり、政権の暴走としか言いようがない。

「自衛隊を認めた時の大転換に比べれば、集団自衛権など大きな問題ではない」

安倍首相の理論的支柱になっている政治学者の北岡伸一氏は、そのような発言を繰り返している。憲法9条はとっくに空洞化しているのだから海外での戦闘参加だっていいじゃないか、という理屈である。毒を食ったのだから皿まで食え、というわけだ。

◆品川正治氏の戒めの言葉

「9条の旗は今やボロボロに引き裂かれた。しかし日本国民はその旗竿(はたざお)をまだしっかり握っている。旗はボロボロでも旗竿を押し立て前進するしかありません」

昨年10月に亡くなった品川正治・元日本火災社長は晩年、こう語っていた。

京大在学中、2等兵として中国の最前線へ送られた。生きて帰ることはないと覚悟しながらも九死に一生を得た。引き揚げ船が港に入ったとき、新憲法制定を報ずる新聞に接し、上官に命じられ一条ずつ読み上げた。

「戦争放棄を定めた9条に涙が吹き出て、止まらなかった」という。砲弾の破片を体内に残したまま、火災保険会社に就職、静かにキャリアを重ねた。

米国の要請で警察予備隊がつくられ自衛隊になり、憲法9条は空洞化されていく。世情の移ろいを横目で見ながら企業を担う立場になり、社長・会長と昇進する。財界でも人格者と認められ、経済同友会専務理事となり、封印していた思いを解いた。「9条を護(まも)れ」と声を上げて活動を始めたのは、ペルシャ湾岸戦争を機に日本に参戦を求める空気が強まったころだ。前線へ送られた者が知る悲惨な現実を次世代に伝えようと奮闘した。

「9条は米国の要請で空文化し、日本でも廃止しようという人たちがいます。しかし国民は納得していない。改憲の企てはいつも挫折してきた。旗はボロボロでも国民は旗竿から手を放していない」

◆政権のおいしさを知った公明の迷走

安倍首相はじめ海外で米国と軍事作戦を展開したい人たちは「旗はボロボロじゃないですか。もう旗竿から手を放しなさいよ」と言っているのである。だが、どうだろう。

公明党の山口代表は「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」がある場合に限って認められる限定的なものだ、と言っている。

言い訳臭いが、公明党は、自民党の暴走に歯止めをかける役割を演じているというポーズが必要なようだ。与党の一角を占め、政権に加わることのおいしさを存分に味わっている公明党には、政権離脱はあり得ないのだろう。その一方で、平和を希求する人々が支持基盤を形成しているだけに自民党への抵抗姿勢は崩せない。安倍首相が望む、海外でも米軍協力を無原則で支持することはできない、というわけだ。

安倍首相も「地球の裏まで行って戦争するわけではない」という。本心はそうでないとしても、国民に集団的自衛権を説得するには、そういうしかない。

◆大転換する政府の途上国援助

国民は「まだ旗竿を手放してはいない」のである。安倍首相が憲法改正を国民投票で問えないのも、旗竿を放さない人がたくさんいるからだ。だが、権力はあきらめない。力ずくで旗竿をむしり取ろうと、手を掛けてきた。

民生支援から軍事支援に広げようという途上国援助も同じである。日本の援助は平和目的、という原則がまたしても「有識者懇」という権力者のお囃子(はやし)を使って大転換する。

戦争に加担せず、赤十字のように中立という立場で紛争地域でも比較的自由な立場に身を置けるNGOなどの活動さえ難しくなりそうだ。平和憲法に裏打ちされた政策は一つひとつ潰そうという流れが強まっている。2年前の総選挙で「海外で戦争ができる国」など焦点にさえならなかったのに。
 

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