п»ї 時代に合わない法は変えねばならない『時事英語―ご存知でしたか?世界ではこんなことが話題』第15回 | ニュース屋台村

時代に合わない法は変えねばならない
『時事英語―ご存知でしたか?世界ではこんなことが話題』第15回

6月 12日 2015年 文化

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SurroundedByDike(サラウンディッド・バイ・ダイク)

勤務、研修を含め米英滞在17年におよぶ帰国子女ならぬ帰国団塊ど真ん中。銀行定年退職後、外資系法務、広報を経て現在証券会社で英文広報、社員の英語研修を手伝う。休日はせめて足腰だけはと、ジム通いと丹沢、奥多摩の低山登山を心掛ける。

日本人の美徳であるルールをよく守ることは誇るべきことだ。しかし、時として規則に従うことそのものが立派なことで、コンプアライアンスを過大に尊ぶ風潮が企業社会にないとはいえないと感ずる時がある。特に金融の世界では、当局の権力は絶大なので余計にそうだ。

ところが、ビジネスの世界全般でのルールは往々にして既存の市場参加者の利益擁護になりがちで、規制が市場の求めるサービス、商品供給を妨げる恐れもある。特に最近の電子技術を活用する新種サービスにおいては在来の業種を想定した業務規制では対応しきれず、本当の需要者ニーズに応えていくのに障害になることもある。

その意味で今回紹介する記事「規則をシュレッダーにかける」(Schumpeter Shredding the rules、The Economist May 2nd 2015)は興味深く読めた。時代に合わない法は変えねばならない。特にビジネス関連の既存法規制は常に見直され、必要とされる新しいものは速やかに制定されるべきだ。

ただ、欧米の想像力に富む新しいサービス、商品の起業家たちの持つ気質は我々のものとは基本的に異なってもいる。権力、為政者への理由のない従属心を持たない強烈な独立心は、それを衝撃的に表したときに社会から受ける反発はまた圧倒的だ。そしてそれは反道徳的、反社会的とのそしりを受ける。そして往々にして非難する側は、結局現状を変えることへの不安、恐れに基づいてそうするのである。

◆ホットな新しい企業は法的トラブルの渦中にある?

「驚くべき多数の革新的企業が法規制に拘泥(こうでい)しないビジネスモデルを実行している」というリードで始まる英文の抄訳は以下の通りである。

開拓者的企業は歴史的にも法規制との折り合いは良くなかった。米国の19世紀のいわゆる“あこぎな資本家”たちも、物事を進めるためには、最初に許しを請うよりもまずやってしまったのち寛容を求めるほうがたやすいと信じていた(もっとも、用心のため認可を与える政治家を事前に買収しておくに越したことはないであろうが)。歴史上の最初の車の製造者は、もとは馬と馬車のために造られた道路に関する規制と格闘せねばならなかった。1960年代に英国最初の”海賊”ラジオ放送局は、一般大衆に流行歌を流すためにわざわざ公海域まで移動せねばならなかった。

革新者たちと規制当局者たちとの間の緊張が最近特に高まっている。(ともに米ベンチャーでシェアライド業務を扱う)ウーバー社(Uber)とリフト社(Lyft)は、彼らの車呼び寄せサービスがありとあらゆるタクシー規制違反を犯しているとの苦情に見舞われた。世界最大手の空き部屋シェアサイト、エアビーアンドビー社(Airbnb)に部屋を貸している人々は無許可のホテル営業を行っていると非難されている。電気自動車メーカーであるテスラモーターズ社(Tesla)は独立系のディーラーを経由せず運転する個人に直接販売しようと試みたが、訴訟で阻まれた。そして、個人間金融サービスのプロスパー・マーケットプレイス社(Prosper Marketplace)はその創業初期に米証券取引委員会(SEC)から“業務停止命令”を受けた。ホットな新しい企業を見いだすためにはしばしば現在、法的トラブルの渦中にある会社はないか、と探すのが近道であるかのように思える。

この軋轢(あつれき)が大きくなっていることについては、二つの大きな理由がある。第一に、抜本改革が必要な、規制に厚くガードされたサービス業に対して多くの革新的企業がデジタル技術を駆使して攻勢を仕掛けていること。彼らはウェブサイトやスマートフォンのアプリを使い、未活用の労働力や資源の行き先となる市場をつくり出すことを試みるのである。ウーバー社とリフト社は人々の車をタクシーに換えた。エアビーアンドビー社は人々の空き部屋を賃貸させた。プロスパー社は人々の余裕現金の貸し出しをさせた。在来型のタクシー会社、ホテル業者、銀行は自分たちがありとあらゆる規制に従っているのだから新参者たちも同様にすべきだ、と(需要者には)合理性のないクレームをつけている。

第二にネットワーク効果の力である。市場に早く到達し、できる限り素早くビジネスを大きくしてしまうことは、たとえそうすることが法的リスクを犯すことを意味しても(うまくいった場合を考えると)動機は巨大なものである。ハーバード・ビジネススクールのベンジャミン・エデルマン氏は、YouTubeの成功は部分的にこの戦略に負っていると言う。YouTubeは創業した2005年、コンテンツと視聴者獲得を目指して競争する10数社のビデオサイト業者のひとつであった。

そのうちのGoogle Videoなどのような何社かは投稿されてくるビデオを著作権侵害の恐れがないかどうかを生真面目にチェックしていたのである。YouTubeはもっとリスクを取るのに果敢で、著作権保持者がクレームを申し立てたら問題のビデオの取り下げることにした。その戦略はうまくいったのである。

Google社は06年、16億5千万ドルの価格で株式交換の形でYouTube社を買収した。そして今、創業10周年を祝うYouTubeは巨大となった一方、創業当時の競合者たちは消えていった。この戦略を唱える人たちは現有勢力よりも良質なサービスを提供することと、彼らの批判者たちを既得権の保護者と描き出すことによって世論を動かし、彼らに有利になるよう規制を変更させたり解釈させたりすることができるのである。

彼らはまた、政治家たちの前向きに見られたい願望に乗っかることもできる。昨年、英政府の閣僚の一人であるエリック・ピクルス氏はエアビーアンドビー社および類似の業者が出現したことに呼応して、短期不動産賃貸業に関する規制の撤廃を発表した。彼は言う。「インターネットは我々が働き暮らしていく形態を変えつつあり、法規制もその変化に追い付いていかねばならない」と。

法規制を精密にクリアすることよりも、まず成長を重視する革新的企業は広報あるいはロビー活動のために資金をつぎ込む余裕がある。エアビーアンドビー社はニューヨークマラソンを後援した。ウーバー社はオバマ大統領の元上級顧問のデビッド・プラフ氏を会社の政策立案部門のヘッドとして採用した。

しかし、そのような戦略は危険と隣り合わせでもある。初期の音楽配給サイトであったナップスター社(Napster)は、彼らの努力がアップル社の合法的なダウンロードサービス、iTunes開始の地ならしにつながったのではあるが、訴訟によってつぶされてしまった。
規制当局が業者のわずかな間違いに対しても厳しい措置を取る金融業界においては、特に危険である。プロスパー社は個人間融資業者としてはかつて米国最大であり、レンディングクラブ社(Lending Club)は大差をつけられた業界2位であった。

プロスパー社は当初はSECの警告を無視して成長をめざし駆け出した一方、レンディングクラブ社は創業者が規制に適合できる道筋を得るまでの数か月の間、業務を停止したのである。今や上場会社となったレンディングクラブ社はそのこともあってプロスパー社に追い付くことができたのであり、一方、プロスパーは創業者を追い出してやっと社の生命を取り戻すことができたのが実情である。

そしてまた、法規制を疎んじる企業の取引相手が突然、法規制を遵守(じゅんしゅ)することが結局得策であると決めるリスクもある。カリフォルニア州でウーバー社とリフト社は数人の運転手たちから訴訟を起こされた。彼らの言い分は、自分たちの身分は単に会社の請負業者ではなく社員と位置づけられるべきである、と。 そしてそれに伴いガソリン代とか車の維持費の補償を受ける権利がある、と。その理由は、会社は彼らがあたかも社員であるかのようにあらゆる細かいルールを課しているからという。すなわち、車の清潔度、乗客に対する言動などへの指示である。(抄訳続く)

◆正道を外すことなく歩む

ここで述べているような法的リスクが意味するところは、企業にとって有利になるよう法規制を変えることができないのであれば、新しい戦略に切り替えられる能力が必要となるということである。

YouTubeはそれを行った。彼らは人々が著作権を侵害して投稿してくることを活用してスタートを切ったのではあるが、今や自ら画像を作り送ってくる投稿者たちと広告収入を分かち合うことで事業を運営しているのである。このような旋回(せんかい)は今後も行われるであろう。というのは、お騒がせの風雲児たちは法廷で自分たちの言い分について、自身による説明責任を強いられるからである。

リフト社に対する訴訟を裁いた裁判官の言葉であるが、陪審団が、運転手たちは社員か請負業者なのかの判断を求められた際のことを例えて、「彼ら陪審団は四角い釘を一つ渡されて、二つの丸い穴のうちどちらに打ち込むのか?」と回答を迫られたようなものだと述べた。

ウーバー社とリフト社は今では彼らが提供できるサービスの便利さと質に支えられ、社員として処遇するよう判決が下されても競合していくだけの基盤を確立している。ニューヨークで、オンデマンドで家の掃除サービスを請け負うネット利用の仲介サービス業者、マイクリーン社(MyClean)は訓練されて雇用の安定した社員を使うほうが顧客へのより良いサービス提供のためには適切との結論に至り、外部業者の使用から切り替えた。

しかし、いまだ体力不足の企業にとって、政策や規制の立案者たちが、膨大な数の革新的で法規制を試す(規制の不備を突こうとする)新種ビジネスが出現するのに対応して彼ら自身のインターネットスピードを速めたり、デジタル化時代に即応した規制を編み出したりすることができれば、それはありがたいことであろう。(以上、抄訳終わり)

※今回紹介した英文記事へのリンク
http://www.economist.com/news/business/21650142-striking-number-innovative-companies-have-business-models-flout-law-shredding

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