п»ї 経済危機に備えよ AIIBの秘めた役割『山田厚史の地球は丸くない』第44回 | ニュース屋台村

経済危機に備えよ AIIBの秘めた役割
『山田厚史の地球は丸くない』第44回

4月 17日 2015年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

米国の中央銀行・連邦準備制度理事会(FRB)が「いつ金利引き上げに動くか」がやたら注目されている。これだけ下げたのだから、もう上がるしかないのだが、その時期に関心が集中している。

利上げは今年6月ころ、と見られてきたが「まだ早い」とか「今年は無理だろう」などという意見もある。「もう利上げなんてできないよ」といった声さえある。

なんでこんなに注目されるのか。理由は簡単。上げたら大変なことが起こる、という不安が市場に充満しているからだ。

◆「金融緩和は経済の矛盾を覆い隠す」

経済にとって低金利は「痛みどめ」みたいなものだ。金利が上がり出すと麻酔が効かず痛みに耐えられなくなる。

分かりやすいのが「追い貸し」である。立ち直る見通しもない事業にカネを貸し続ける。融資を打ち切った途端、返済不能になるので融資を続ける。やむなく返済資金を上乗せして貸すから、不良債権はどんどん膨らみ、ますますつぶせなくなる。

そんなケースは金融緩和の局面では珍しいことではない。昔から取引があるから、今の社長が支店長時代に始めた融資だから、などと理由は様々だが、開けてはいけない「パンドラの箱」はあちこちにある。

お目付け役の金融庁だって笑えない。政府が抱える1000兆円の借金も、ただ同然の金利のおかげでダラダラと膨らんできた。ギリシャ危機だって超低金利をいいことに「隠れ借金」を政府がつくっていた。 そんなことが世界のあちこちにある、と分かっている人は分かっている。

そこでFRBの利上げだが、「アメリカの金利が上がってくると世界のどこかで金融危機が起こる」という説がある。例えば1997年にタイから始まったアジア通貨危機。それほど大きな利上げではなかったが、これから米国は景気がよくなる、とドルが強くなった。タイ・バーツをはじめ、 アジアの通貨はドルに連動していたため通貨が高くなり、産物が国際競争力を失いった。国際収支が悪化し、外貨準備が底を尽き、支払いが出来なくなった。

アジアに流れ込んでいた投機資金が一斉に逃げ出す。金融市場は大混乱し、銀行間取引は麻痺、経済は機能不全になった。

同じようなことがブラジルやロシアでも前後して起きている。発端はアメリカで金利が上がったことだった。

「金融緩和は経済の矛盾を覆い隠す」といわれる。追い貸しが象徴するように、痛みを嫌い、薬が切れると大騒ぎになる。90年代初頭に日本で起きたバブル崩壊も低金利に終止符が打たれたのが発端だった。

◆「中国版IMF」

中国の「シルクロード基金」をその文脈で読むと、狙いが見えてくる。

設立の大義名分は「アジアのインフラ需要に融資する基金」となっている。ならばアジアインフラ投資銀行(AIIB)との違いはない。

AIIBは多国間の組織で、域外国の参加も認める。中国が主導する国際金融機関を目指している。

シルクロード基金は中国独自の機関。資本金も400億ドルと小ぶりだ。ちなみにAIIBの授権資本は1000億ドルである。なぜ同じ役割を持つ機関を二つも作るのか。

基金と銀行。この組み合わせ今の国際金融秩序の当てはめてみると国際通貨基金(IMF)と世界銀行に似ている。主導権を持つのはIMFでその事業部門が世銀だ。IFMの役割は国家の資金繰りの支援。アジア危機や中南米危機で救済融資を行ってきたのがIMFである。増税、公務員の削減、生活水準の切り詰めなど厳しい調整政策を命ずるのはIMFだ。破綻国家に政策を強制するのがIMFで、韓国の通貨危機では占領軍のように受け取られた。

アメリカで金利が上がり始めたら、どこかでアジア危機や中南米危機のようなことが起こるだろう。ゼロ金利まで沈んだ「長く深い金融緩和のツケ」がこれから表面化する。

シルクロード基金は「中国版IMF」ではないだろうか。多国間の機関にすると協議に手間がかかる。中国の意向を通すのも難儀である。自らの判断で素早く救済資金を出せるようにするには、他国を入れない基金を作ればいい。中国はそう考えたのではないか。

中国財務省が4月15日に発表したところによると、AIIBの「創始メンバー国」として57か国が確定した。もはや中国の意のままで動く組織にはならない。阻止に動いた米国・日本を押しのけて世界の多数派工作に成功した中国は国際金融の舞台で存在感を示した。これは外交成果だ。

危機に陥った国を、中国が救済する機能はシルクロード基金に委ねられるのだろう。

シルクロード基金とアジアインフラ投資銀行の組み合わせは、中国版IMF・世銀体制と読める。

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