「アメリカの時代」幕引くトランプ
孤立に向かう「ならずもの国家」
『山田厚史の地球は丸くない』第311回

4月 17日 2026年 国際

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

やはり、というか、とうとう、というべきか、いよいよ、である。世界のトランプ離れが止まらない。各国の指導者は、距離を置き始めた。ついにバチカンまで「トランプ批判」へと動き、「孤立するアメリカ」が鮮明になった。

奢(おご)れるものは久しからず。世界の軸は変わりつつある。「ドナルド、世界に繁栄と平和をもたらすのはあなただけです」(高市首相)と付き従う日本は、大丈夫だろうか。

◆米大統領が行った「国家によるテロ」

「修正憲法25条」の適用がアメリカ議会で、冗談ではなく語られ始めている。大統領の死亡・辞任などがあった時、副大統領が職務を継承する手続きを定めたものだ。その第4項に、大統領の能力に問題が生じ、「職務に不適格」とみなされた場合、閣僚の過半数と副大統領の判断により、罷免できるという規定がある。25条の発動は、これまで任期途中の死亡以外にない。今回、トランプにこの規定を適応できないか、という声が連邦議会で湧き上がった。

発端は、ホルムズ海峡の閉鎖をめぐり、「イランが合意しなければ今夜、文明全体が滅ぶ」と発言したことだった。「石器時代に戻す」などと脅しても動かないイランに苛(いら)立ち、核攻撃を匂わす「文明が滅ぶ」という表現を使った。

結果的には最後通牒(つうちょう)期限(午後8時)の2時間前に「2週間の停戦合意」が発表されたが、一時は「トランプは本気で核兵器の使用も考えているのでは」との憶測さえ流れたという。小学校を誤爆し100人を超える幼い命を奪いながら謝罪さえしない。戦争犯罪になりかねない「発電所や民間インフラの攻撃」を脅し文句にする大統領でいいのか、という声は民主党だけでなく、トランプ支持だった「MAGA(メイク・アメリカ・グレート・アゲイン)」派の勢力にも広がっている。

共和党元下院議員のテイラー・グリーンは、トランプの「イランの文明が滅ぶ」という投稿にXで「修正第25条だ!」と反撃。トランプ政権1期目の広報担当だったアンソニー・スカラムッチは「目を覚ませ。トランプ氏は核攻撃をしかねない。ただちに解任を求めろ」とよびかけた。

トランプへの絶望感が米政界に広がったのは2月28日のイランへの奇襲攻撃があまりにも衝撃的だったからだ。核協議の最中(さなか)、いきなりテヘラン中心部などを空爆し、最高宗教指導者のハメネイ師を殺害、革命防衛隊長をはじめとする国家中枢の40余人を一挙に抹殺(まっさつ)した。宣戦布告もなく無防備の相手をピンポイントで狙って殺す。文明国ではありえない「国家によるテロ」。それをアメリカ大統領が行った。

◆トランプの暴走を戒めたローマ教皇

「気に入らない相手」だから、「存在自体が邪魔者」という感覚で、他国の政治指導者を排除する。そんなことが許されるなら、ホワイトハウスが空爆され大統領はじめアメリカ中枢が皆殺しにされても、文句は言えない。国際法や人権を持ち出すまでもなく、「人殺し」は政治家として失格である。そんな人物が核のボタンを握る恐ろしさに米議会も肝を冷やしたことだろう。常軌を逸した大統領は辞めさせるしかない。だが現実は「副大統領と閣僚の過半数の賛成」という条件が壁となっている。

ベネズエラでしたように、特殊部隊を攻め込ませ、大統領公邸に踏み込み、寝ていた大統領夫妻を生け捕りにして米国に拉致する。そんな暴挙さえ誰も止められない。強大な権限、取り巻きはイエスマン、文句を言わない国際社会。なんでもできるという全能感が、ボケが始まる年頃の権力者を有頂天にさせてしまうのか。

この点を突いたのがローマ教皇レオ14世だった。4月11日の礼拝で「全能の幻想が戦争を煽(あお)っている」と説き「自己崇拝・金銭崇拝・力の誇示は、もう十分だ」と言葉を重ねた。「戦争はすべて敗北であり、暴力の連鎖を煽るべきでない」として、すべての当事者に自制と対話を強く求めた。名指しこそしなかったが、トランプの暴走を戒めた。

トランプは自身のSNSに長文の反論を掲げた。「教皇の外交政策はひどい」「核兵器に甘い」などとこき下ろし、「私がホワイトハウスにいなければ、レオはバチカンにいない」と書いた。つまりレオ14世が教皇に選ばれたのは、アメリカ人だからで、トランプが大統領としていたからだ、と「オレのおかげで教皇になった」と言わんばかり。権威を打ち砕く、エリートの虚飾を剥(は)ぎ取る、雲の上の人たちを下世話な世界に引きずり下ろす。そんなトランプ流のパフォーマンスは一部の支持者を喜ばすが、真っ当な人々を離反させている。バチカンに悪たれをつき、教皇への敬意を欠く発言は、トランプの品位を一段と落とし、支持者離れにつながる。

ロイター通信の世論調査では4月の支持率は36%(不支持56%)、就任当初(2025年1月)の46%から下がり続けている。

去年は「高関税」をこん棒のように振り回した。気に入らない相手に高関税をふっかけた。嫌なら言うことを聞け、という腕力外交は国際社会の顰蹙(ひんしゅく)を買ったが、巨大な米国市場を人質にとるアメリカには逆らえない、と下手(したて)に出る対応が目立ち、トランプを増長させた。

◆「トランプへの同調は危ない」―国際社会に広がる空気

今年になって局面が変わった。トランプの横暴は、通商交渉だけでなく、武力による侵攻へとエスカレートした。ベネズエラで起きたマドゥロ政権打倒は、あからさまな主権侵犯で国際法違反だが、中南米というアメリカの勢力圏で起きた事件であり、国際社会はただ驚くばかりで、強い批判は起こらなかった。

この成功体験がトランプを増長させたのだろう。イスラエルと組んで実行されたイランへの奇襲攻撃は、戦争目的も不明な乱暴なものだった。EU(欧州連合)をはじめとする国際社会は、アメリカの真意を測りかね慎重な姿勢だった。やがてトランプがイスラエル首相のネタニヤフにそそのかされて踏み切ったと知り、EUの主要国は「自分たちの戦争ではない」とアメリカと距離を置くようになった。

イランの反撃でホルムズ海峡は封鎖、湾岸の石油施設は破壊され、エネルギー不足やガソリン価格値上がりが世界経済を揺さぶっている。イスラエルに引きずられるトランプに同調するのは危ない、という空気が国際社会に広がった。

タンカーの安全確保のためホルムズ海峡に艦船を派遣しろ、とアメリカが命じても、動く国はない。トランプが、米海軍による海峡逆封鎖に出ても、協力する国はない。「自分で戦争をはじめておきながら、混乱したから手伝えと言われても」と言うのが多くの国の本音だ。日本でさえ、戦場に自衛艦を送ることはしない。

アメリカの孤立が鮮明になった。もともとイラン攻撃の目的が明確でなかった。トランプは当初「イランが攻撃の準備をしていた」と説明したが、国防総省(戦争省)は「攻撃の準備は確認されていない」と訂正した。「独裁と戦う市民を支援し体制転換を促す」とも言ったが、空爆でイランを転覆させることはできないというのが米軍の見立てだ。「イランの核開発を阻止するため」ともいうが、イランが妥協案を出した核協議を打ち切って攻撃に踏み切った。協議がまとまると困るのはイスラエル。イランを弱体化させる、というイスラエルの悲願に沿った作戦だった。

中東紛争に関与することはアメリカの利益にならない、と言っていたトランプがネタニヤフに引きずられ参戦した。アメリカの力を借りなければ果たせないイラン攻撃にイスラエルは成功したが、アメリカに何をもたらしたのか。

◆あがきながら沈みゆく暴君

皆がひれ伏すという全能感に酔って力を見せつけた結果、何をするか分からない国と思われ、アメリカ離れが進む。

世界最強の軍隊を持ち、それを支える経済規模を誇り、他国に開いた大きな市場がある。これらをテコに揺るぎない政治力を発揮してきた。その軍事力と政治力は、国際秩序を守るために使われてこそ、アメリカは世界の盟主でありえた。いまや負担が重くなり、「アメリカ・ファースト」が叫ばれるようになった。

軍事力と政治力を、自らの金儲(もう)けに使うというのでは、仲間は離れていく。防衛費用の負担増を迫り、投資という名の貢物を要求する。その上さらに目的も出口も定かでない戦争に協力しろといわれても、いい返事はできない。世界を混乱させるだけの紛争は速やかに手仕舞いしてもらいたい、というのが大方の反応だ。

トランプの愚挙でしかない今回の戦争は、アメリカが「ならず者国家」であることを世界に示してしまった。トランプに限らず、アメリカは国際紛争を武力で解決する国として世界の頂点に立ってきた。第2次世界大戦の後も、朝鮮半島、ベトナム、中南米、アフガニスタン、中東などで、ほぼ切れ目なく戦争してきた。

入植以来、先住民と戦い、土地を奪い、英国、フランス、スペインと戦って支配地を拡大した。頼るのは武器であり、銃が今日のアメリカを作った。先住民への殺戮(さつりく)や略奪は、相手を人と見なかったことの表れで、黒人差別もその延長線上にある。そして西部劇さながらの略奪行為がイランで繰り返されている。

軍事力で世界を支配したアメリカが、軍事負担で喘(あえ)いでいる。先日発表された2027年度の連邦予算教書では、軍事費は1兆5000億ドル(約230兆円)で予算総額の20%を超えた。軍事予算の伸び率は44%。この膨圧で医療費をはじめとする社会保障費などが圧迫される。予算教書は、議会に対する政権の要求金額だが、兵器を大量に消耗するイラン戦争で空前の軍事予算が編成された。3分の1に当たる2.2兆ドル(約350兆円)が国債によって賄われる。まさに軍事費の増加が財政を押しつぶす構造だ。イラン戦争の長期化は米国財政を破壊する。

国民生活は、医療費補助など社会保障予算の切り詰めで苦しくなる。インフレがのしかかり、原油価格の高騰はガソリン価格を押し上げる。

トランプの選挙公約は「戦争からの離脱」と並んで「インフレの克服」だった。バイデン政権がインフレを煽った、とこき下ろし低所得者の支持を得たが、トランプは、物価を煽る金利引き下げには熱心だが、インフレ対策はほとんどなかった。中東に戦火を広げたことは致命的である。

戦争とインフレ。看板公約の崩壊は、11月に予定される中間選挙への影響は免れない。分かっているだけにトランプは焦る。本音は戦争を中断したいのだろうが、名誉ある撤退はますます難しくなった。

裏切られた有権者は離反し、国際社会での孤立が鮮明になった。あがきながら沈んでゆく暴君の姿に、アメリカの栄光が重なる。(文中一部敬称略)

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