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AIは社会のDIYツール
『みんなで機械学習』第36回

3月 26日 2024年 社会

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山口行治(やまぐち・ゆきはる)

o株式会社ふぇの代表取締役。独自に考案した機械学習法、フェノラーニング®のビジネス展開を模索している。元ファイザージャパン・臨床開発部門バイオメトリクス部長、Pfizer Global R&D, Clinical Technologies, Director。ダイセル化学工業株式会社、呉羽化学工業株式会社の研究開発部門で勤務。ロンドン大学St.George’s Hospital Medical SchoolでPh.D取得(薬理学)。東京大学教養学部基礎科学科卒業。中学時代から西洋哲学と現代美術にはまり、テニス部の活動を楽しんだ。冒険的なエッジを好むけれども、居心地の良いニッチの発見もそれなりに得意とする。趣味は農作業。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。

◆制作ノート

英国の経済学者エルンスト・シューマッハー(1911~1977年)の「スモール イズ ビューティフル」における中間技術の提案を、「みんなで機械学習」として実現するため、「スモール ランダムパターンズ アー ビューティフル」という拙稿を連載している。前回は、機械学習する組織として、社会制度の仕組みで収集した社会的なデータを、役所や大学などの社会的組織が機械学習して、地域の情報サービスの形で提供し、地域の小組織が自発的に組織活動に活用することを考えてみた。地域の小組織であれば、周辺の固有名詞を特定することができるので、現在の生成AI(人工知能)技術が陥るハルシネーション(事実に基づかない情報を生成する現象)、固有名詞と事実の乖離(かいり)、を防止できる。周到な考慮によって、周辺に限定したスモールデータは、支配欲に取りつかれたビッグデータを凌駕(りょうが)するだろう。「スモール ランダムパターンズ アー ビューティフル」は途中の画像以降なので、制作ノートに相当する前半部分は、飛ばし読みしてください。逆に言うと、制作ノートは形式にこだわっていないので、まとまりがないけれども読みやすいかもしれません。

「スモール ランダムパターンズ アー ビューティフル」のゴールは、結論を論理的に構築することではなく、生活のライフサイクルにおいて、データの世界との共存・共生・共進化に希望を実感することにある。近代的なモノの価値に従属する経済から、コト(サービスなど)の意味を重要視する経済への移行を時代背景として、近未来のデータサイエンス テクノロジー アンド アート(データの世界)が、人類の文明論的な変革をもたらす夢物語を、少なくともディストピアとはしない、複数の探索路を切り開こうとしている。物語のゴールにおいては、意味が認知される以前の「データ」そのものが、みんなの機械学習によって、「言語」とは別の、文明の道具になるだろう。

DIY

筆者が英国のロンドン近郊で生活したのは、43年前のことで、英国がEC(EUの前身で、欧州経済共同体)に加盟していなかった時代だ。もちろん、日本の生活も昭和そのもので、現在とは大きく異なっていた。スーパーマーケットが小売業を圧迫し始めていた時代で、それでもクルマ社会ではなく、駅前の商店街に個性的な店がたくさんあった。英国でびっくりしたのは、DIY(日曜大工)の店だ。元気な中産階級が、自宅や庭の手入れに余念がなかった。例えば、毎年新年に、その年のペンキの新色が発表され、春になると、みんながペンキ塗りを始める。前庭を花で飾って、裏庭には家庭菜園を作る。日本の団地生活からは、うらやましい限りだけれども、上流階級の皆さまとは違って、Do It Yourselfだ。筆者はDIYにはまり、現在に至っている。DIYが素晴らしいのは、電動工具や自作キットなど、毎年使いやすくなり、道具をそろえてマニュアルを読むことが楽しい。ネットが無い時代なので、全て印刷物で、無料の教科書もあった。DIYは、セルフサービスやセルフメディケーションのように結果を求めるのではなく、地域における学習の機会であり、隣人との会話のネタなのだ。筆者の英語力はFORTRAN(古いプログラミング言語)以下だと揶揄(やゆ)されていたけれども、DIYの話題になると饒舌(じょうぜつ)だった。

See Think Plan Do

スコットランドで生活した時には、運転免許を取得した。北国の生活では、Ph.D.(博士号)よりも、運転免許のほうが役立った。何度も路上試験に失敗したおかげで、英語(スコットランドなまり)はかなり上達したと思う。教えてもらったことは、ただ一つ、See Think Plan Doだ。Doとして、エンジンのかけ方から、クラッチの使い方などを学びながら、とにかく、自分でできる範囲で、See Think Plan Doを実行する。See Thinkが問題なければ、路上試験には合格するはずだけれども(Doの技量は重要視されない)、試験官の指示を正しく聞いて、例外事象への対処(例えば急ブレーキをかけろ)をタイミングよく行うのは、外国人には難しかった。例外事象は10種類程度のようで、現地人には教官との会話からある程度予想できるらしい。筆者も、ある程度予想できるようになったので、試験に合格した。Thinkとは予測することで、Planは実行のタイミングであることが、今ではよくわかるようになった。品質管理で汎用(はんよう)されるPDCA(Plan Do Check Action)サイクルを、AI技術の活用で半フェース先行させたCAPDサイクル(※参考;「みんなで機械学習」第1回)は、See(Check) Think(Action) Plan Doから発想したものだ。

「みんなで機械学習」第1回では、CAPDサイクルを4回転半することを目標にしていた。人間中心のプロセスを考えていた。今なら、AI中心にして、1000回転か10000回転することを目指すだろう。そのぐらい、生成AIやAGIのインパクトが大きかった。それでも、おそらく、完全な自動運転はできない。もしくは、運転のスピードを極端に遅くして、安全運転するするためには、機械のほうが従順で適性があることは確実だろう。筆者は、最初の路上試験で、遅く運転しすぎて失敗した。後続のドライバーの事故率を上げることが問題らしい。特に、信号のないランドアバウト(環状交差点)では、適切なタイミングとスピードで進入しないと、危険だ。ランドアバウトが設計された時代の馬車であれば、馬たちが適切に進入タイミングを調整してくれるけれども、馬のレベルの自動運転であっても、現在のAIでは難しいだろう。

◆心臓は毎分70回転している

昭和の時代から、大きく変化したのは、社会全体が、デジタルによる技術的支配を受容したことだろう。もう少しで、AIまたはAGIによる技術的支配の時代になる。産業革命以降、技術が経済的に支配的な役割を果たすようになったことは間違いない。しかし、技術よりも科学のほうが進歩的で、特に国家が関与する科学技術では、科学者が技術者よりも優遇されていた。科学としては、自然科学を想定している。社会科学も頑張ってはいるけれども、実用性は疑わしい。しかし、デジタルの時代では、社会技術が暗躍している。デジタル技術の社会実装において、社会科学者よりも、犯罪者や独裁者のほうが先行しているという意味だ。筆者はデジタル技術の進歩性を120%信じているけれども、データサイエンスは、データの自然科学であって、データサイエンスはデータテクノロジーよりも未来志向であってほしい。社会活動において、支配的な技術があることは問題ではない。産業革命における、熱力学のようなものだ。技術と比較して、科学が衰退し、技術を覇権国家や巨大企業が独占することを危惧(きぐ)している。科学の場合は、覇権国家や巨大企業が直接独占することはできずに、科学技術として、軍事産業などの、特殊な応用課題に限定されていた。昭和が遠い昔になったけれども、新しい時代の、新しい科学や、新しいアートは、どこに潜(ひそ)んでいるのだろうか。筆者はデータサイエンスにも、新しい未来があると信じて、本稿を続けている。

CAPDサイクルを毎分1000回転することは可能だろうか。心臓は毎分70回転している。意識が、脳波に現れる10ヘルツ程度の変化であると仮定すると、毎分600回転になる。運転中の意識として、毎分1000回転程度は、妥当かもしれない。しかし、このように高速に回転するためには、自転を小回りに行うことが有利だろう。高速回転するCAPDサイクルが役立つためには、高速にデータを収集することと、回転に伴う位相情報(または位相制御)が必要なので、画像情報よりも、音響データ(聴覚)のほうが有利かもしれない。毎分10回転(10ヘルツ)は、人間の可聴域外の超低音で、高音域なら20キロヘルツ程度まで可聴域だ。自動車の自動運転においても、コオモリのように超音波データを使う可能性がある。空間分解能の関係で、3D-LiDAR(※参考:https://www.zmp.co.jp/knowledge/words/01 )というミリ波レーザーが主流のようだけれども、低速であれば、自動車の超音波のセンサーも実用化している。自動運転に限らず、医療データにおいても、超音波画像の活用を見直してみたい。

◆オープンなAI議論

CAPDサイクルは、CAのフェーズでAIによる予測を活用し、PDを人間が責任をもって実行することが発想の出発点だった。現在のAIには責任能力がない。AIを製造した企業の責任を問うことはできるけれども、問題が発覚した後の結果論でしかない。保険をかけていても、責任が免れないのと同じだ。人間が関与するのであれば、毎分1000回転は無理だ。AIが責任ある行動をするためには、AIの立ち位置を正確に理解し、周辺のデータを収集して、行動の結果が予測可能な範囲で、Doを実施する。Doを実施するタイミングと、実施しないタイミング、さらに実施中の計画修正や、中止判断も含めて、Doを実施する以前に考慮しておく。特に、中止判断が重要で、安全に中止できる状況判断を、あらかじめ想定しておく必要がある。新薬の臨床試験では、製薬企業が責任をもつため、上記のような判断を関係者と議論して、あらかじめプロトコルに記載することに慣れている。プロトコルの議論には、社外の倫理判断も重要視される。交通事故の責任を、運転者の保険で代替して、新車の設計時点でのプロトコルとしては表現してこなかった自動車産業では、Doの責任能力は理解し難いだろう。製薬企業は、もっと自信をもって、AIビジネスに積極的に関与できるはずだ。CAPDサイクルをAIが回すために、AIの責任能力について、IT産業以外の産業も含めて、オープンな議論をしてもらいたい。AI産業が、原子力産業のように、学者や専門家たちの、閉鎖的な議論で管理・規制されるとすれば、産業としてはリスクが大きすぎる。

AIは社会のDIYツール

「みんなで機械学習」することは、地域の中小企業でAIを活用することなのだから、逆に、AIの議論や研究を、IT産業だけに任(まか)せるのはやめようという提案でもある。近未来の中小企業は、農業などの第1次産業と、健康・福祉・教育などのサービス産業を、AI技術でブリッジして(組み立て直す)、産業社会だけではなく、地域社会に重層的に関与するはずだ。責任能力があるAI産業においては、地域による自主的な(顧客との合意による)AI技術の社会実装が、現実的であって、未来志向でもある。責任能力を、IT技術の問題に制約するのではなく、社会問題として、立体的に理解する考え方だ。筆者のAI論としては、個体差を機械学習することがないAI技術は、全て技術的に未熟であって、危険だ。AI技術の活用では、地域という、個体差を表現する「場所」を積極的に限定しながら、固有名詞を機械学習して、「動詞」をCAPDサイクルに結び付けて、Doの内容をしだいに豊穣(ほうじょう)にしてゆく、試行錯誤のことを「社会実装」と考えている。

「地域」における役所は、地方自治体と呼ばれている。地方自治体は、行政的な役割としては、国の下請け的業務を担当している。自治体なので、公的な選挙によって、政治的な役割が決定される。経済的な役割としては、地域の経済活動を調整する、保守的な役割が大半で、地域おこしなどの、企画計画型の活動は、国からの予算配分で運営されることが多い。米シリコンバレーなどの、ベンチャー企業が集積する地域ネットワークは、必ずしも行政区分と一致しない場合もある。筆者の想定している地域の中小企業は、地方自治体のネットワーク程度の大きさ(面積)で、スマートテロワール(※参考:https://www.smart-terroir.com/ )のイメージだ。スマートテロワールは農業を中心として、周辺産業のことを考える産業地域論なのだけれども、もちろんAIの活用や、福祉や教育などの社会サービスの刷新は、現時点では構想外だ。AIが、組織活動の重要なツールであること、しかも、急速に発展していることは確かだとして、「みんなで機械学習」するのであれば、まさにDIY(Do It Yourself)ツールとなるだろう。地域に個性と活力のある社会的DIYショップを作る活動が、近未来の地域おこしであることを、地域の金融サービスに理解してもらいたい。

シャンパンスノー 2024年2月13日 福島県南郷スキー場で筆者撮影

 『スモール ランダムパターンズ アー ビューティフル』

1   はじめに; 千個の難題と、千×千×千×千(ビリオン)個の可能性

1.1 個体差すなわち個体内変動と個体間変動が交絡した状態

1.2 組織の集合知は機械学習できるのか

1.3      私たちは機械から学習できるのか

2   データにとっての技術と自然

2.1 アートからテクノロジーヘ

2.2 テクノロジーからサイエンス アンド テクノロジーへ

2.3 データサイエンス テクノロジー アンド アート

2.4 データサイクル

2.5 データベクトル

2.6 局所かつ周辺のベクトル場としてのデータとシミュレーション

3  機械学習の学習

3.1 解析用データベース

3.2 先回りした機械学習

3.3 職業からの自由と社会

3.4 認知機能の機械学習とデジタルセラピューティクス(DTx)

3.5 学習は境界領域の積分的探索-ニッチ&エッジの学習理論

3.6 機械学習との学習

4  機械学習との共存・共生・共進化-まばらでゆらぐ多様性

4.1 生活と経済の不確実性

4.2 生活と経済に関連する技術は、何を表現しているのか

4.3 スモール データ アプローチ-個体差のまばらでゆらぐ多様性

4.4 まばらでゆらぐ多様性の過去・現在・未来

4.5 生活の不確実性を予測する

4.6 弱い最適化脆弱性/反脆弱性からのスタート

4.7 ひとつのビッグ予測、たくさんのスモール適応

5  自発的な小組織(seif-motivated small organizations)

5.1 社会、地域、家族 vs. 国家、企業

5.2 組織は組織でできている組織サイクル

5.3 機械学習する組織(前稿)

5.4 CAPDサイクル(本稿)

CAPDサイクルは、AIがCA(Check、Action)を、人間がPD(Plan、Do)を分担する、半周期先行回転するPDCAサイクルとして構想した(※参考;「みんなで機械学習」第1回)。PDCAサイクルは、品質管理では汎用されるフレームワークで、経営論でも有用だけれども、ダイエットの目標管理などの、生活環境ではあまり見かけない。場所の移動など、個体差に関連するDoがうまく表現できないので、個人の生活環境では使いにくいのだろう。AIを活用するCAでは、周辺データの収集と予測を行う。PDでもAIを活用するのであれば、事前にDoを良く分析して、Doの結果も予測して、Doの予測制御を試みることになる。AI技術をビジネスに応用する場合、例えば自動車の自動運転において、技術開発のPDCAサイクルを速く回すことが、結局、競争優位性につながることはよく知られている。しかし、AI技術によって、PDCAサイクルそのものを速く回すチャレンジ(以降はCAPDサイクルと記載する)は、生成AIなどのAGIが現実的になってからの話だ。AI中心のCAPDサイクルでは、AIの責任能力について、社会全体で、あらかじめ十分に議論しておく必要があるだろう。

AIに責任能力がありうるのだろうか。ありうるとすれば、AIが法人組織のように、法人格を持つことから始まるだろう。法律によって記述されるAIの人格は、AIを作るプロセス、AIを処分するプロセス、AIの課税義務など、人間や組織を対象とする法律と同等か、それ以上の多面的な記述となり、しかもAI技術の進化のスピードが法律作成よりも早いことを想定すると、法治国家の能力の極限へのチャレンジでもあるだろう。少なくとも、かなりの量と質の法律業務の生産性を、AIを使って飛躍的に向上させる必要がある。筆者としては、AIの責任能力は、AIが個体差を機械学習するようになるまでは、独裁AIを防止するために、限定的なものになると考えている。より現実的なシナリオは、責任能力が問われにくい低リスクの仕事で、必要だけれども誰もやりたくないネガティブな仕事に、AIの社会実装を限定することが考えられる。例えば、ゴミ収集とか、認知症の介護などだ。その場合でも、AIは、あくまで業務を遂行するためのツールであって、自律的なAI業務は求めない。

業務を遂行するためのツールとしてのAIは、現在の生成AIでも同じ位置づけだろう。多少違うことがあるとすれば、利益を追求するビジネスとしての業務か、社会的に必要とされる行政の下請け的な業務かといった、業務の目的の違いぐらいのものだ。従って、業務ツールとしての機能は、業務の目的には強く依存せずに、同等の機能が要求される。以前は、3K労働として、「きつい、汚い、危険」な仕事が嫌われたけれども、最近は「帰れない、厳しい、給料が安い」仕事も含めて6K労働といわれる。AIの社会実装は、6K労働に限定するといった、思い切った規制を議論してもらいたい。学校教育での生成AIの利用は、業務ツールでの経験を積んでから、法規制の最終段階であるべきだ。現在のAI規制は、EUであっても進み過ぎている。このようにAIの使用目的に応じて規制を行うためには、AI技術を提供する企業の自主的な判断ではなく、AI技術を使う企業の、納税義務のような、厳しい監督と、減税処置といった、AI業務に対応しうる社会システムを早急に整備する必要がある。継続的に提供される社会的なサービスは、ほぼ全てプロセスで記述されるため、AIを使う業務プロセスを、例えばCAPDサイクルによって標準化して、AIによって管理すれば、技術的には可能なはずだ。軍事目的の戦闘プロセスであっても、PDCAサイクル類似のOODAループ(Observe, Orient, Decide, Act)によって最適化されるという話もあるので、CAPDサイクルの標準化とAI実装を実験してみる価値ぐらいはあるだろう。

PDCAサイクルは、1サイクルごとに明確な改善目標があった。CAPDサイクルが毎分1000回転する業務でも、人びとが感じる業務改善は、PDCAサイクルと大きくは変わらないだろう。無駄に高速回転しているということもできるけれども、異常な状況の検知や、リスクマネジメントを考えると、稀(まれ)にしか発生しないイベントを、常時監視して、迅速に対処すると考えることもできる。AI技術は予測技術が重要だ。データを機械学習して、自動的に予測精度を向上させるプログラムを考えている。こういった状況で、個体差の機械学習は、どのように役立つのだろうか。稀にしか発生しないイベントの場合、イベントの内容を精査するよりも、周辺状況の予測誤差が増大するタイミング(異常発生リスク)を、的確にとらえるほうが有用だろう。個体差の機械学習は、個体の表現型、すなわち周辺状況を予測することを出発点としている。筆者の発想としては、例えば、心血管系イベントのリスクを、多数のバイオマーカーの予測値と予測誤差から、間接的に推定する問題を考えている。心血管系イベントの発生は稀で、しかも発生状況はとても多様であるため、直接的に予測することは困難だ。実際に、不整脈の薬物療法において、効果が認められ、症状が改善している患者さんで、外出中や運動中にイベントが発生してしまう、逆説的な状況を経験している。個体差の機械学習を考えることで、直接的な効果(すなわち中心部)の予測ではなく、間接的な効果(周辺状況)の予測誤差に注目するようになった。CAPDサイクルから得られるデータを機械学習することで、こういった難問にアプローチできるだろう。

個体差のデータ解析について考え始めた時(40年以上前)には、個体(individual)のデータにおける統計的差異(difference)を問題としていた。機械学習の場合は、予測の問題となり、個体のデータそのものを、個体の表現型から理解すること、すなわち、差異ではなく、個体の場所(立ち位置や表現)として理解することの大切さに気がついた。AI技術の頭脳は機械学習なので、個体差の機械学習がうまく機能すれば、個体差をともなうAI(またはAGI)となるだろう。現在のAIは、自分の名前も認識できない。他者も個体として固有名詞で理解していない。統計的な個体差の解析は、ほぼ確立されている。しかし、機械学習による個体の場所を理解することは、これからの課題だ。場所というと、空間のイメージが強いけれども、個体の場所は、身体の臓器のように、階層的に離散化されていて、距離は順位でしかない場合が多いと思われる。地域のビジネスにおける組織(中小企業や役所など)における個体の場所(立ち位置や表現)については、次回に譲って、AIを中心として高速に回転するCAPDサイクルについて、ポジティブな近未来をスケッチしてみよう。筆者の意見としては、ネガティブな近未来は、AI独裁や人類絶滅を含めて、想像できること以上に危険なので、現在の問題として、政治的にAIを規制するしかない。

人びとは、各自の才能が評価され、活躍の機会が与えられることに喜びを感じる。現在では、芸術の才能、スポーツの才能も含めて、多くの才能が、ビジネスとして評価され、仕事の機会となる。もし、生活の才能が評価されるとしたら、喜びを感じるだろうか。家族の中での役割分担としては、生活の才能が重要であることは言うまでもないけれども、社会的な活躍の機会とは言い難い。人類が存続してきたのは、生活の才能のおかげだし、小さな階級社会や集落での生活では、生活の才能は、家族以外でも、社会的に活躍する機会があったと思われる。歴史を巻き戻すことはできない。個人主義が、家族のありかたを変容させて、ひきこもりなどの難しい問題を抱(かか)える現代では、自然な意味での(ビジネスではない)社会的活動の基盤が失われている。生活の才能を再評価するとすれば、最先端のAI技術に生活の才能を実装する試みが有望だ。家電製品にAI技術が搭載されたとしても、それはビジネスとして、大企業から与えられるAIでしかない。安価な家電製品に、ほぼ無料でAI機能を外付けして共有し、家電製品のデータから、健康状態などを機械学習する、結果として医療費や介護費用を節約する、そういう近未来もありうるはずだ。AIを生活のツールとして、DIY(Do It Your self)を楽しむ生活の才能が開花するかもしれない。DIYはセルフサービスやセルフメディケーションではなく、電動工具などのツールを使いこなす、生活の場での工作の楽しみであって、しかも、DIYショップでは、工具類と半加工された素材類の新製品が登場するので、ショッピングの楽しみもある。みんなで機械学習するAIは、社会のDIYツールとなるだろう。

※『みんなで機械学習』過去の関連記事は以下の通り

第1回「CAPDサイクルの4回転半がゴール」(2021年2月16日付)

https://www.newsyataimura.com/yamaguchi-40/#more-11660

◆次回以降の予定

5.5 ビジネス表現の個体差(3×3 table)

5.6 組織の周辺積分的思考

5.7 データサービス商品を創出する知的自由エネルギー産業

6  おわりに;生活と社会のビューティフル ランダム パターンズ

(中里斉 モナド; Hitoshi Nakazato, Monado)

6.1 ほとんど色即是空・空即是色な世界

6.2 観測できないブラックホールは実在する?

6.3 データ化する私(datanize me)

6.4 延長されたフェノラーニング®

作家は2度死ぬ、作品は死なない

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『みんなで機械学習』は中小企業のビジネスに役立つデータ解析を、みんなと学習します。技術的な内容は、「ニュース屋台村」にはコメントしないでください。「株式会社ふぇの」で、フェノラーニング®を実装する試みを開始しました(yukiharu.yamaguchi$$$phenolearning.com)。

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