п»ї アジアでのM&Aリスクと留意すべき点『国際派会計士の独り言』第2回 | ニュース屋台村

アジアでのM&Aリスクと留意すべき点
『国際派会計士の独り言』第2回

3月 11日 2016年 経済

LINEで送る
Pocket

国際派会計士X

オーストラリア及び香港で大手国際会計事務所のパートナーを30年近く務めたあと2014年に引退し、今はタイ及び日本を中心に生活。オーストラリア勅許会計士。

最近、日本企業の直接海外投資、特にアジアや欧米の企業の合併・買収(M&A)による投資が急増しています。製造業だけでなく、例えば成熟した国内市場から新たな市場を獲得・拡大したい東京海上日動や明治安田生命などの幾つかの保険会社による欧米保険会社買収、サントリーに代表される酒類を含む飲料食品会社による海外大手買収、日本郵便によるオーストラリア運輸業大手買収など大型化するとともに、M&Aを手がける業界も内需型企業を中心に多岐にわたっています。日本での業績回復による余裕資金を一つの背景として、超円高時期に行われた海外M&Aの流れは、円安に転じてからも続いていると言えます。

◆リスクは買収後もある

海外M&Aは、グリーンフィールド投資(法人を新しく設立し、設備や従業員の確保、チャネルの構築や顧客の確保を一から行う投資)に比べて新規市場での事業拡大までの時間と手間を節約できるほか、事業ポートフォリオの見直しなどがしばしば利点や目的と言われています。

その一方で、海外で行った日本企業の買収が必ずしも成功裏に終わらず、その後の親会社による撤退や、それに起因すると思われる経営トップ層の退任などが新聞紙上を賑わしています。

今回は、筆者の長年の勤務地だったアジアパシフィックを中心に、日本企業による海外M&Aとそのリスクについて考えてみたいと思います。

海外に進出する場合、支店による直接投資やジョイントベンチャーなど様々な形態がありますが、ここでは 子会社による間接進出、特に日本企業による海外企業のM&Aを念頭に話を進めたいと思います。

デロイトトーマツ企業リスク研究所が実施した最近の調査では、日本企業の優先するリスク管理で最近にわかに、「子会社のガバナンスに関するリスク」とともに、「海外拠点の運営に関わるリスク」と「海外企業買収後の事業統合リスク」が認識されてきたとしています。これはやはり最近、日本企業によるM&Aが増えているというだけではなく、海外での企業買収の難しさを感じていることの裏付けだと言えるのはでないかと思います。

◆慎重さ求められるデューデリジェンス

筆者はオーストラリア、アジア特に中国で、日本企業によるM&Aのプロセスとその結末をアドバイザー的な立場で見てきましたが、中長期的観点で成功裏に終わったM&Aは必ずしも多くはありません。

では、海外M&Aがどのような理由でうまくいかなかったのかという点について、私なりに考えてみます。

(1)全社的な事業戦略の中でのM&Aの位置付けが不徹底

その企業にとって中長期の戦略上、当該の買収がどのような位置づけとなるかやその目的などを明確化し、周知することが肝要と思われます。

(2)対象会社に対するデューデリジェンスの不全

法的や財務上などの事前調査などが十分に実施されることは当然ですが、それが丸投げではなく、会社の意向に沿って実施されることが重要だと思います。その後に判明した、買収した会社(グループ内子会社を含む)の不正や損失によって親会社自体の経営基盤が脅かされることもありえますので、十分慎重なデューデリジェンス(不動産投資やM&Aの際に企業の資産価値を適正に評価する手続き)の実施が重要です。特にアジアの一部の国では財務報告などが欧米などと比べてガバナンスが十分に効いていないなどの理由から、信頼性に劣る点もありえるという指摘も聞いたことがありますので、慎重な対応が肝要です。

(3)M&A後の不適切な統合

M&A成立後の統合プロセス(PMI)が親会社の戦略に適合し、適切にかつ迅速に実施されることが重要だと思います。成功例として20年ほど前にオーストラリアで見た某化学品会社の買収事例ですが、買収した現地会社を製造機能を中心とした会社として位置付け、それまであった財務・経理部門や販売部門を大きくスケールダウンさせるなどの機能の組み替えという荒療治を行って成功させました。

現地や本社担当者に丸投げするだけでなく、本社経営トップ主導でのPMIとそれをうまく進めるための本社リソースの十分な配分などは見事だと思いました。

アジアでのカルチャーギャップやコミュニケーションの難しさを痛感し対応しながら、経営トップがPMIの重要性と現地事情を理解したうえで、信念を持ってその後のガバナンスを効かした経営を行っていくのが肝要だと思います。

(4)グローバル人材の不在

日本にある親会社の人材は言うまでもなく、買収した子会社も含めて海外で活躍できる人材の育成・登用は不可欠だと思います。特に、アジアでは優秀な人材の育成とそのリテンションというテーマは進出する企業にとっては難しい問題ですが越えなければいけない課題だと思います。そのための適切なプログラムやプロセスを考案してきちんと実践していくことが大変重要だと思います。

◆海外子会社に対するガバナンスも必要不可欠

以上、海外M&Aを行ううえで幾つか考慮すべき点を、私の経験を基に列挙させて頂きました。

最近では中小企業の海外M&Aが増加していると聞き及んでいますが、海外で事業買収を成功させるのは容易ではありません。日本企業がアジアでM&Aなど積極的な海外展開を行う際には、十分慎重なデューデリジェンスなどの手続きを行う一方、海外子会社に対する十分なガバナンスを効かせながら経営陣が信念を持って対応していくことがその成功には必要不可欠であることを念頭に置いて進めるべきだと思います。

コメント

コメントを残す