コンテンツクリエーターが注意すべき【生成AI】利用の法的問題
『企業法務弁護士による最先端法律事情』第19回

5月 12日 2025年 社会

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北川祥一(きたがわ・しょういち)

北川綜合法律事務所代表弁護士。弁護士登録後、中国・アジア国際法務分野を専門的に取り扱う法律事務所(当時名称:曾我・瓜生・糸賀法律事務所)に勤務し、大手企業クライアントを中心とした多くの国際企業法務案件を取り扱う。その後独立し現事務所を開業。アジア地域の国際ビジネス案件対応を強みの一つとし、国内企業法務、法律顧問業務及び一般民事案件などを幅広くサポート。また、デジタル遺産、デジタルマーケティング等を含めたIT関連法務分野にも注力している。著書に『Q&Aデジタルマーケティングの法律実務』(日本加除出版、2021年)、『デジタル遺産の法律実務Q&A』(日本加除出版、2020年)、『即実践!! 電子契約』(共著、日本加除出版、2020年)、『デジタル法務の実務Q&A』(共著、日本加除出版、2018年)。講演として「IT時代の紛争管理・労務管理と予防」(2017年)、「デジタル遺産と関連法律実務」(2021年、2022年、2024年、2025年)などがある。

1 生成AIとは?

 生成AI(人工知能)について法的な定義は現状ありませんが、一般には、言語や画像などによる指示により文章、画像、動画などのコンテンツを生成する AIのことをいうものとされています。

2 開発・学習段階における法的問題

文部科学省の文化審議会著作権分科会法制度小委員会のまとめた『AIと著作権に関する考え方について』(令和6年3月15日)においては、生成AI と著作権に関する検討の整理として、著作物の利用場面を①開発・学習段階②生成・利用段階に分けて検討しています。

AI 開発においては、大量のデータを用いた学習による開発が行われており、このデータの中には著作物も存在し得ます。このような場合において個々の著作物に関する権利許諾を受ける必要があるとすると技術的な発展が大きく阻害されることとなります。そこで、著作権法はこのようなAI 開発のための学習を含んだ情報解析の用に供するための著作物の利用に関しては、著作権法34条の4に一定の要件のもと個別の許諾を得ることなく利用可能であるとしました(同条第2号)。

条文上の要件をみると

①著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合

②著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は除く

などの要件が読み取れますが、開発・学習段階における法的問題の中心的検討対象の一つとしてはこの著作権法第34条の4の要件への該当性が挙げられるでしょう。

同条項の要件の検討については、「情報解析の用に供する場合」と享受目的が併存する場合などの検討を含めて相応の分量となりますが、本稿ではAI開発事業者ではないコンテンツクリエーターが注意すべき点についてフォーカスをしていきますので、こちらは要件の概要までに。

3 生成・利用段階における法的問題

コンテンツクリエーターとしては生成AIの法的問題としては、生成・利用段階におけるそれの方が特に興味があるところでしょう。

①生成AIを使って画像や動画を作成したが、生成されたそれら画像や動画が既存の著作物に類似していた場合に法的責任は発生するのか?

②そもそも生成AIによる生成物は著作物に該当し得るのか?

③生成物の著作権者は誰か?

などの問題が切実かつ興味があるところと考えられます。

3-1

①生成AIを使って画像や動画を作成したが、生成されたそれら画像や動画が既存の著作物に類似していた場合に法的責任は発生するのか?

まず前提としての著作権侵害一般論となりますが、判例上、問題となる作品に既存の著作物との類似性及び依拠性が認められる場合に著作権侵害となるとされています。

①-1 類似性

類似性の判断については、判例上、表現それ自体でない部分や表現上の創作性がない部分について既存の著作物との同一性があるにとどまらず、既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる場合に類似性があると判断されています。

生成AIによる生成物の場合においても、類似性の判断はこれと変わらず、既存の著作物の表現上の本質的な特徴が感得できるかどうかということなどにより判断されると考えられます。

具体的な「表現上の本質的な特徴」への該当性については、どうしてもその要素の性質上、個別具体的な事案ごとに異なる・ケースバイケースとなります。

①-2 依拠性

依拠性については、問題となる作品の創作者が既存の著作物の表現内容を認識していたか否かが問題となりますが、創作者の主観的・内心の問題でもあるため、判断としては制作者が既存の著作物に接する機会があったか否かという外枠的な客観的事情により推認を行うことが多いと言えます。

他方で、生成AI による生成物が既存の著作物に類似していた場合に、生成AI の利用者は該当のAI開発・学習時の当該既存の著作物の利用の有無を認識していないが、実際には開発・学習時に当該既存の著作物が利用されていたという場合があるなど、特有の問題も発生し得ます。

○生成AIの利用者の認識という要素と○生成AIの開発・学習時の既存の著作物の利用の有無という要素で場合を分けて考える必要があります。

①-2-A

生成AIの 利用者が既存の著作物を認識していたと認められる場合:

AI 利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しており、既存の著作物画像や既存著作物のタイトルなどを入力して生成AI により当該著作物の創作的表現を有するものを生成させた場合は、依拠性が認められ、AI 利用者による著作権侵害が成立すると考えられます(※注1)。

①-2-B

AI 利用者が既存の著作物を認識していなかったが、AI 学習用データに当該著作物が含まれていた場合:

AI 利用者が既存の著作物を認識していなかったが、当該生成AI がその開発・学習段階で当該著作物を学習していた場合には、客観的には当該著作物へ接していたことになります。このような場合に、当該生成AI による生成物が当該著作物に類似したものであった場合、通常は依拠性があったと推認され、AI 利用者による著作権侵害になり得ると考えられています。

当該結論は、AI自体の開発者でない利用者が、自己がコントロールできないAIの開発・学習段階における既存著作物へのアクセスの有無により、依拠性判断の帰趨(きすう)が決定されるということに他なりませんが、依拠性の要件自体は客観的なアウトプットへの寄与という意味で理論的にはそうなるともいえます(法的責任論との関係では、例えば、損害賠償請求の当否という観点でみれば、行為者の主観面である故意・過失が要件となるため、仮にAI利用者の故意・過失がないと認定される場合ここでバランスがとられることとなるでしょう)。

いずれにせよ、コンテンツクリエーターとしては、法的なリスク回避の観点からは、結果的な生成物が既存著作物に類似しているか否かのチェックが要請されるといえると考えます。

①-2-C

AI 利用者が既存の著作物の認識がなく、かつ、該当の生成AIの開発・ 学習段階のデータにも当該著作物が含まれない場合:

AI 利用者が既存の著作物を認識しておらず、かつ、当該生成AIの開発・学習段階で、当該著作物を学習していなかった場合は、当該著作物に類似した生成物が生成されたとしても、これは偶然の一致に過ぎないものとして、依拠性は認められず、著作権侵害の要件を欠くと考えられます。

3-2 ②生成AIによる生成物は著作物に該当し得るのか?

「著作物」は「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(法第2条第1項第1号)とされるところ、生成AIによる 生成物が著作物に該当するか否かは、当該定義への該当性を検討することになります。

人間が生成AI に関与するのは指示(プロンプト)によりますので、当該指示が思想・感情を創作的に表現したものであると言える程度のものであるか、表現に至らないアイデアにとどまる程度のものであるかが判断の基準になるものと考えられます。

3-3 生成物の著作権者は誰か?

生成AIによる生成物に著作物性が認められる場合、その生成物の著作者は誰かが問題となります。

「著作者」は「著作物を創作する者をいう。」(著作権法 同項第2号)と定義されていますが、AIは法的な人格を有しないため、「創作する者」には該当し得ないと解されます。

そうであるとすると、生成物が著作物に該当する場合においても、生成AI自体は著作者とはならず、当該AI を利用して「著作物を創作した」人が当該AI 生成物(著作物)の著作者となるものと考えられます。

4 著作権侵害のペナルティー

著作権侵害となる場合、侵害行為者に対しては、①差止請求②損害賠償請求及び③著作権侵害に基づく刑事責任追及――の可能性があります。

著作権侵害に関する故意又は過失が認められない場合には不法行為に基づく損害賠償請求が認められないこととなりますが、その場合でも、不当利得として、著作物の使用料相当額などの不当利得の返還請求が認められることがあり得る点には注意が必要となります。

また、差止請求についても故意及び過失の有無にはかかわらず請求はあり得ます。

 様々なコンテンツを創作するに際して生成AIを利用する場面が増えているところですが、コンテンツクリエーターとしては上記のような点にも注意しながら創作活動を行う必要があります。

※注1

『AIと著作権に関する考え方について』(文化審議会著作権分科会法制度小委員会、令和6年3月15日)33頁の「①AI 利用者が既存の著作物を認識していたと認められる場合」の分類にならい「認識していたと認められる場合」としたが、その具体的態様の記述をみると

「(例)Image to Image(画像を生成AI に指示として入力し、生成物として画像を得る行為) のように、既存の著作物そのものを入力する場合や、既存の著作物の題号などの特定の固有名詞を入力する場合」(同33頁)とあることから、生成段階での指示入力自体が意図的に既存著作物と類似の生成物を生成する場合を想定しているものと思われる。

理論的にはAI利用者が既存著作物の表現を認識していたとしても指示入力において既存著作物画像やタイトル等関連の入力をしない場合で、結果として既存著作物と類似のものが生成されるという場合もあろう。無論、生成の後、既存著作物類似の生成物であることを認識しつつこれを利用することについては別途検討・問題となるが、分類として「生成」と「利用」を分析的に考え「生成」段階の議論とすると、上記のとおり、理論的にはAI利用者が既存著作物の表現を認識していたとしても指示入力において既存著作物画像やタイトル等関連の入力をせず結果として既存著作物と類似のものが生成された場合において、当該生成AIにおいて開発・学習段階での既存著作物のデータが含まれている場合と含まれていない場合で検討する必要があるのではなかろうか。

特に同34頁において「② AI 利用者が既存の著作物を認識していなかったが、AI 学習用データに当該著作物が含まれる場合」にも依拠性は推認されるとして、依拠性の判断にAI利用者の認識ではなく、開発・学習段階での既存の著作物のデータ含有という客観面で依拠性を判断する以上、(上記のとおり生成段階で既存の著作物画像や関連タイトルを指示入力する場合は別として、そうでない場合)AI利用者の既存の著作物に関する認識の有無ではなく、開発・学習段階での既存の著作物のデータ含有という客観面で「生成」段階の依拠性を判断することに整合性があるように思われるが、どうであろうか。

※本稿は、私見が含まれており、また、実際の取引・具体的案件などに対する助言を目的とするものではありません。実際の取引・具体的案件の実行などに際しては、必ず個別具体的事情を基に専門家への相談などを行う必要がある点にはご注意ください。

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