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分散型自律組織(DAO)の法律問題概要
『企業法務弁護士による最先端法律事情』第15回

11月 13日 2023年 社会

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北川祥一(きたがわ・しょういち)

北川綜合法律事務所代表弁護士。弁護士登録後、中国・アジア国際法務分野を専門的に取り扱う法律事務所(当時名称:曾我・瓜生・糸賀法律事務所)に勤務し、大企業クライアントを中心とした多くの国際企業法務案件を取り扱う。その後独立し現事務所を開業。アジア地域の国際ビジネス案件対応を強みの一つとし、国内企業法務、法律顧問業務及び一般民事案件などを幅広くサポート。また、デジタル遺産、デジタルマーケティング等を含めたIT関連法務分野に注力している。著書に『Q&Aデジタルマーケティングの法律実務』(2021年刊、日本加除出版)、『デジタル遺産の法律実務Q&A』(2020年刊・日本加除出版)、『即実践!! 電子契約』(2020年刊・日本加除出版、共著)、『デジタル法務の実務Q&A』(2018年刊・日本加除出版、共著)。講演として「IT時代の紛争管理・労務管理と予防」(2017年)、「デジタル遺産と関連法律実務」(2021年、2022年)などがある。

北川綜合法律事務所代表弁護士。弁護士登録後、中国・アジア国際法務分野を専門的に取り扱う法律事務所に勤務し、大企業クライアントを中心とした多くの国際企業法務案件を取り扱う。その後独立し現事務所を開業。アジア地域の国際ビジネス案件対応を強みの一つとし、国内企業法務、法律顧問業務及び一般民事案件などを幅広くサポート。また、デジタル遺産、デジタルマーケティング等を含めたIT関連法務分野に注力している。著書に『Q&Aデジタルマーケティングの法律実務』(2021年刊、日本加除出版)、『デジタル遺産の法律実務Q&A』(2020年刊・日本加除出版)、『即実践!! 電子契約』(2020年刊・日本加除出版、共著)、『デジタル法務の実務Q&A』(2018年刊・日本加除出版、共著)。講演として「IT時代の紛争管理・労務管理と予防」(2017年)、「デジタル遺産と関連法律実務」(2021年、2022年)などがある。

1 分散型自律組織(Decentralized Autonomous Organization)とは?

「分散型自律組織(Decentralized Autonomous Organization)」(DAO)について現状のところ統一的な定義はないと解されますが、デジタル庁のWEB3.0研究会においては「中央集権的な管理機構を持たず、参加者による自律的な運営が行われることを特徴とする組織とされており、一般的にブロックチェーン技術、スマートコントラクト、その他のソフトウェアベースのシステムを活用したものが想定されている。」(注1)とされています。

大まかにいえば、ブロックチェーン、スマートコントラクト等のテクノロジーを利用した新しいタイプの組織形態あるいは社会構造といえるでしょう。

DAOの活用についてはアイデア次第で無限の活用方法があり得ますが、代表的な具体的事例としては、NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)の共同購入・保有を目的としたDAO、ブロックチェーンのデジタル都市を構築することを目的としたDAO、以前本稿でもデジタル遺産との関係で触れた(注2)メタバースの運営を目的としたDAO(メタバース内の土地などのコンテンツ、マーケットプレイスなどの管理・運営)などがあります。

デジタル庁のWeb3研究会におけるDAOの各種問題の研究のためのWeb3研究会DAO(注3)や各種社会課題の解決を目指すDAO(注4)などもあります。

 DAOにおいては、一般的には、その運営等に関する意思決定を行うためのガバナンストークンを発行し、参加者はそれを保有することでDAOに参加することとなります。DAOの意思決定は、ガバナンストークンの保有者による投票によって行われることとなります。

既存の組織形態としては株式会社、合同会社などがありますが、それら組織形態と比較して組織への参加者の匿名性もDAOの特徴の一つといえるでしょう。

株式会社、合同会社など既存の組織形態のメリットを越えたDAOに対する期待として、

「⑴グローバルに多様で多くの人々を活動に巻き込むことができる

⑵参加者の利害を一致させることでコモンズの悲劇を避けることができる

⑶スマートコントラクトの活用により公平で効率的な組織運営が可能となる、

⑷ブロックチェーンによる高い透明性を活かして公平性が担保できる」

(「Web3.0 研究会報告書~Web3.0 の健全な発展に向けて~」(2022 年 12 月Web3.0 研究会)23頁)

といった点が挙げられています。

2 DAOの法律問題概要

①法主体性・法的位置付け

世界に目を向ければ、アメリカのワイオミング州やテネシー州(近時ユタ州においても関連法律が制定されました)において、一定の要件のもとDAOに法人格を付与することができる法律が制定され、実際に法人格が認められたDAOが発生していますが、現状の日本においてはDAOという組織形態に法人格を付与する法律はありません。

このことは、DAOの活動に関連した契約関係についてDAO自体が直接の契約当事者となることはできず、また、許認可が必要な事業について、DAOに法人格がない以上、DAO自体が許認可を受けて該当の事業を行うことができないなどといった結論を導きます。また、DAOの利益への課税など、関連する税務関係の処理についても不透明であるという問題もあります。

現状の法律の範囲内でDAOの法的位置付けを検討すれば、(既存の法人組織をベースとしたスキーム以外のDAO(注5)については)権利能力なき社団などが検討され得ますが、実際のDAOの形態には様々なものが想定され、その法的位置付けは不透明といえるでしょう。

DAO責任主体・参加者の権利義務

上記①のとおり、DAOに法人格がなく法的な権利義務の帰属主体とならないとすれば、DAOの活動に関する第三者に対する責任の所在、DAOの参加者の責任などはどう考えるのかといった点が問題となります。

③暗号資産関連規制との関係

DAOの発行するトークンが暗号資産と自由に交換ができる性質を有するような場合当該トークンについて暗号資産該当性の問題が発生するなど、トークンの発行については、資金決済法や金融商品取引法などの規制との関係で検討を要する事項となります。

3 DAOの法的課題に関する今後の動向

現在日本においてもデジタル庁のWeb3.0研究会などにおいてDAOに関する議論が進められていますが、上記各法的課題に関する対応として、DAO法人化の当否などについて、法人化を認めた場合のDAO参加者の有限責任化・第三者への責任・権利義務主体としての明確化などの利点及び現実のDAO利用・運用の実態や実際のニーズなどを踏まえつつ、検討が進められるものと考えられます。

暗号資産などもそうでしたが、新しい技術に基づく新しい社会現象については、先に事実上の利用が発生し、それに基づく問題が様々発生した後に対応する規制・法律が制定されるという経緯をたどりますが、一定の慎重な検討をしつつも、可能な限り迅速な法的枠組みの設定も望まれるところでしょう。

(※注1)

「Web3.0 研究会報告書~Web3.0 の健全な発展に向けて~」(2022 年 12 月Web3.0 研究会)

https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/a31d04f1-d74a-45cf-8a4d-5f76e0f1b6eb/a53d5e03/20221227_meeting_web3_report_00.pdf

(※注2)

『企業法務弁護士による最先端法律事情』

第14回メタバース内の不動産も 「デジタル遺産」になる?

https://www.newsyataimura.com/kitagawa-9/

(※注3)

Web3.0研究会DAO立ち上げについては、

Web3.0研究会(第5回)(日時:令和4年11月2日(水)9時30分から11時00分まで)の「【資料4】Web3.0研究会DAOの立ち上げについて(PDF/540KB)」

https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/43542a45-1ee6-4309-95f0-0893eb52d501/fa2198ce/20221102_meeting_web3_outline_04.pdf

参照

その後の進捗については、

「Web3.0研究会 フォローアップ会議 議事要旨(2023年6月30日更新)」

https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/482a33ff-7f46-4990-a044-25e5e31c0de5/2ccea186/20230418_meeting_web3_summary_06.pdf

参照

(※注4)

山古志村DAO

( https://www.city.nagaoka.niigata.jp/shisei/cate08/file/inobetiku-06.pdf )など

(※注5)

合同会社などの既存の法人組織をベースにDAOを組成するというスキーム・試みもあるようですが(DAOの定義の仕方によっては、その時点で既に純粋なDAOとはいえないかもしれませんが)、例えば、DAOの参加者を合同会社の社員とする場合、合同会社においては定款記載事項として社員氏名などの記載が必要となるため、DAOの特徴であるトークンの移転によるスピード感のある流動性やトークン保有者(参加者)の匿名性などの性質とは整合的ではないと思われ、その他DAOのメリットの享受も限定的となるものと考えられます。したがって、新しい組織形態としてDAOに期待されるメリットを全て活用するという意味では、既存の法人をベースとした部分的なトークン、スマートコントラクトなどの利用では限界があり、やはり正面から(それら既存の法人組織などをベースとしない形での)DAOの実現・活用の可能性を検討する必要があるところではないかと考えられます。

※本稿は、私見が含まれており、また、実際の取引・具体的案件などに対する助言を目的とするものではありません。実際の取引・具体的案件の実行などに際しては、個別具体的事情を基に専門家への相談などを行う必要がある点にはご注意ください。

※『企業法務弁護士による最先端法律事情』過去の関連記事は以下の通り

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