п»ї 閉じこもる大国?中国 見たまま聞いたまま(その1) 『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第262回 | ニュース屋台村

閉じこもる大国?
中国 見たまま聞いたまま(その1)
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第262回

3月 15日 2024年 国際

LINEで送る
Pocket

小澤 仁(おざわ・ひとし)

oバンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住26年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

20年ぶりの中国訪問

このほど、約20年ぶりに中国を訪問した。日本の外務省には以前から「チャイナスクール」と呼ばれる中国語を研修言語とした中国専門の外交官がおり、主にこうした人たちが中国にある日本の大使館や総領事館などに赴任する。

世界各地でビジネスや外交を行うためには、その地に精通した専門家の育成が必要である。こうした観点で言えば、私はタイに来るまでは「アメリカンスクール」であろう。中国については全く勉強してこなかったし、中国に関する知識は皆無といってもよい。中国への出張経験はわずか2度だけである。

最初は前職、東海銀行の国際部・資金証券部の次席時代である。バブル崩壊により1990年代の半ばに経営危機に陥った日本の都市銀行は、資産の健全化と業務の見直し(リストラ)が急務であった。東海銀行の海外拠点の再構築のため、上海支店や広州駐在員事務所を訪問したのが1996年。当時の中国は共産主義の色合いを強く残していた。2回目はバンコック銀行(バン銀)に転職したあとの2004年である。当時、タイ国内の大企業専門部と国際部を兼務していた私は、アジアの日系企業との取引推進の可能性を探るためバン銀のアジア拠点をすべて訪問した。当時のバン銀は東南アジア華僑のルーツともいうべき上海、汕頭(スワトウ、広東省)、厦門(アモイ、福建省)に支店を構えていた。

あれから20年。最近急速にタイとの関係を強化しようとしている中国。その中国の発展を実際に自分の目で見ることを目的に、今回はバン銀の中国現地法人拠点を有する上海、重慶、深圳(シンセン)の3か所を1週間かけて訪問した。

前述の通り、私は中国に土地勘もなければ知り合いもいない。バン銀のタイ人拠点長、以前タイに勤務し現在は中国に赴任している日本人の旧友、そして観光でお世話になった中国人ガイド以外にはコミュニケーションをとれる人はいない。たったこれだけで中国のことを理解しようなどとはお門違いである。それでも私なりに感じたことがある。そうしたことをこれから何回かに分けてお伝えしたいと思う。

◆反スパイ法で訪中ためらう日本人

第1回の本稿では「日本人が中国を訪問する際に潜(くぐ)り抜けなければならないさまざまな障壁」について指摘したい。

まず、日本のビジネスマンが最も恐れるのは、中国のスパイ防止法(反スパイ法)のようである。2014年に制定された同法は23年7月から内容が一層強化された。従来「国家の機密や情報」に限定されていたスパイ行為の対象が「国家の安全と利益にかかわる情報や物品」に拡大された。14年のスパイ防止法施行以来、17人の日本人が身柄拘束され、非公開裁判によって処罰されている。裁判内容が公開されていないだけに、どのような事例がスパイ防止法の処罰対象になるのか詳細は不明である。それがゆえに疑心暗鬼が生じる。

中国では電気自動車(EV)が急速に普及してきた。こうした事情を視察するために「日本の自動車会社や監督官庁の関係者が頻繁に中国訪問を繰り返している」と私は思っていた。ところが、昨年日本に帰国して関係者にうかがったところ、実際にはほとんどの日本人は中国出張に及び腰であった。

インターネットを見ても中国のこうしたスパイ容疑にかかわるリスクをあおる記事が氾濫(はんらん)している。もちろん中国では「何が起きるかわからない」という不気味さはある。しかし10万人以上の日本人駐在者がいる中国で、10年間に17人の拘束者しか出ていないのである。よほどの重要人物か本物のスパイでもない限り、慎重に行動すればリスクは軽減できるのではないだろうか? 観光地以外での不用意な写真撮影や、中国指導部の悪口をSNSに投稿するなどはもってのほかであるが。いずれにしても、中国政府による反スパイ法の強化は、結果的に日本人の中国訪問を躊躇(ちゅうちょ)させている最も大きな要因である。

◆英語が通じない?!

2つ目に私が中国で感じたことは、中国人の英語能力の低下である。国際都市である上海の国際空港や一流ホテルでも中国語しか通じない。上海の欧米系ホテルでもわずかにフロントの人たちと英語が通じただけで、ベルボーイやホテル内のミシュラン・レストランでも英語が通じない。このホテルの朝食会場では、ごく少数の西洋人の姿を見ただけである。

重慶では英語を使える人に全く出会えなかった。タイ人観光客にすれ違ったが、それ以外は外国人の姿は皆無である。人口3200万人を抱える世界最大の都市であってもこの状態である。

IT産業が栄える深圳で、ようやくインド人、西洋人、日本人を見かけた。空港やホテルでもわずかながら英語が通じてほっとした。中国の当時の最高指導者だった鄧小平の1992年の「南巡講話」を契機に開発された新興都市の深圳ではその土地の出身者が少なく、中国全土から人が集まり、標準語であるマンダリンで会話をしている。英語もこうした延長線上にあるのかもしれない。

それにしても、中国人の英語力の低下にはびっくりである。20年前に上海を訪問した時は今回よりはましだったような気がする。上海にいる友人に聞いたところ、「この2~3年で急速に中国人の英語力が低下した」という。コロナ禍当時、世界で最も強力なロックダウンを実施した上海は、ほぼ3年にわたり外国人との交流が途絶えた。何といってもこの影響が大きい。

加えて、中国人の中に「中国第一主義(国潮〈グオチャオ〉)」が急速に拡大しているようである。中国人の観光ガイドの一人は私たちに向かって「中国が世界で一番素晴らしい国だ」「日本は遅れており、いまや中国の技術や教育のほうが上だ」と盛んに喧伝(けんでん)してきた。「欧米や日本との交流がなくても中国は十分にやっていける」と多くの中国人が考え始めたように感じられた。日本は中国人にとって「どうでもよい国」になったようである。

◆外国人に不便な携帯アプリ

3つ目に、私が困ったのが「金銭支払いを含めたスマホ手続きのガラパゴス化」である。

中国出張前から「中国では現金やビザ、マスターのクレジットカードが使えない」と散々脅かされていた。こうした友人たちの忠告もあり、中国出張前には中国ブランドの銀嶺(Union Pay)のクレジットカードとデビットカードを作った。さらに携帯電話にはアリペイとタイのCPグループによるTrue Payのアプリを準備した。この2つは「中国国内において外国人でも使用できる可能性が高い」とSNSなどで見たからである。クレジットカードやアプリなどはタイ国内で試験的に使用し、中国出張に備えた。

最初の寄港地は上海。一流ホテルではビザのクレジットカードが使えた。ところが、である。ホテルから一歩外に出て上海の街中でこれらを使った決済を試みると、まず携帯アプリが使えない。アリペイはうまくアプリへの入金ができないため残高不足。True Payはタイ国内で使用できていたが、中国ではタイ人しか使用できないような企画となっていた。

また、銀嶺カードは中国ではあまり普及しておらず、このカード決済ができる店は少ない。わずかにコンビニで買い物ができただけである。これには私もかなり焦った。「最悪、この1週間はホテルでの食事とコンビニの買い物に頼って生きていくしかない。」この不安は翌日解消された。上海に住む日本人の友人が半日がかりでアリペイの決済機能を有効化してくれたのである。

この有効化作業は中国語が不可欠である。中国のアプリには英語機能が付いていないため、中国語ができない人なお手上げなのである。

ところが、一難去ってまた一難である。中国の大衆レストランやコーヒーショップでは携帯電話のアプリからしか注文できないのである。店頭では注文を受け付けない。数少ない例外がスターバックスコーヒーである。一人で食事をしなければいけない時にケンタッキーフライドチキンや地元の食堂でアプリの使用を試みたがすべて中国語。残念ながら注文の最後までたどりつけなかった。

このため今回の出張中は、食事はスターバックスのサンドイッチとコーヒーに頼らざるを得なかった。今回訪問した3都市に限って言えば、「中国語が理解できなければ生きていくこともままならない」状況となっていたのである。

それだけではない。中国ではグーグルやLINE(ライン)は使用不可である。中国語の地図アプリや通信アプリ、タクシーの配車アプリなどが必須である。中国語ができない外国人旅行客にはかなりハードルが高い。

◆コロナ禍で進む「中国第一主義」

確かに中国はこの20年間に急速に発展し、私の訪問した都市に限って言えば、立派に先進国入りした。軍事力・経済力とも日本を追い越し、今や米国に肩を並べようとしている。

しかしコロナ禍の3年で「中国第一主義」が浸透し、中国はすっかりガラパゴス化してしまった。少なくとも私にはそう感じられた。

たった1週間の滞在で結論づけるのは早すぎる。それでもバン銀の中国拠点がなければ中国語の配車アプリが使えず、市内のホテルにも行きつけなかった。友人たちの支援がなければアリペイも使えなかった。「中国は日本人にとって遠い国になった」と感じた今回の中国出張だった。(以下、次回に続く)

One response so far

コメントを残す