п»ї 中国経済は本当に破綻するのか? 中国 見たまま聞いたまま(その2) 『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第263回 | ニュース屋台村

中国経済は本当に破綻するのか?
中国 見たまま聞いたまま(その2)
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第263回

3月 29日 2024年 国際

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

oバンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住26年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

日本のマスコミの記事を見ていると、「中国の不動産大手、恒大集団がデフォルト」「中国の不動産バブル崩壊により中国の銀行は破綻(はたん)の危機」「中国の若者の失業率が20%を超え深刻な経済危機」「中国の電気自動車が売れず投げ捨てられている」などといったセンセーショナルな見出しを見つける。否、見出しだけではなく内容も過激である。

「人の不幸は蜜(みつ)の味」という言葉がある。「失われた30年」の苦汁をなめてきた日本人にとって、隣国中国が少しでも落ちぶれれば安心できるのかもしれない。日本には中国を実際以上にディスる(侮辱〈ぶじょく〉する)記事が氾濫(はんらん)しているような気がする。

本当に中国経済は破綻し、中国そのものが崩壊するのであろうか? 結論を先に言おう。私にはわからない。わずか1週間の中国出張でデータも十分持っていない私が、こんな重要な課題にまともに向き合えるはずがない。しかし、この1週間で中国経済への肌感覚だけは持って帰ってきた。この肌感覚を皆さんと共有したい。

◆不況にあえぐ不動産業

まず、中国経済を語るうえで一番重要なのが、不動産開発の状況であろう。中国政府は都市に市街地を強制収容し、政府主導の大型新都市開発を断行。オフィスビルやマンションを建て、その収益でさらなる都市開発とインフラ整備を行ってきた。

前回2004年に上海を訪問した時には、上海浦東(プードン)地区には田園風景が広がり、農民たちの住居が強制撤去されようとしていた。予期せぬことに、その時私は浦東市の副市長と面談をすることになった。まだ発展途上にあった中国では外資の投資に大きな期待が高まり、浦東市の副市長からは日本およびタイからの投資呼び込みを依頼された。

そんな浦東の風景は今回、様変わりしていた。大きな通りが整備され、高層ビルが立ち並ぶ近代的な都市に変貌(へんぼう)していた。浦東空港から上海市内までの高速道路の脇には何棟にも及ぶ大型ビルの開発の案件が4区画で確認できた。ただし上海を訪れた3月24日の時点では建設が行われているような気配がない。「土曜日の夕方だからなのか?」「それとも中国の旧正月である春節明けだからなのか?」。私には判断がつかなかった。ただし、現地に住む人たちからは、建設が途中でストップした大型開発物件がいくつかあると聞いた。

上海市内の中心部ではさすがに開発がストップしているような物件はないようだが、郊外では建設途中の幽霊物件を見ることができるようである。日系企業が販売している上海郊外のマンションも、300件の売り出しに対して2023年は10件しか売れなかったと聞いた。不動産案件の開発がストップしているのは、上海郊外に限った話ではない。重慶、深圳(シンセン)、広州、東莞(とうかん)でもこうした幽霊物件の話を聞いた。

さらに、中国に長年住むある日本人から聞いた話が面白い。かつては、居住しているアパートのオーナーから頻繁に退去を迫られた。中古マンションが高値で売れれば、その部屋を借りて住んでいる人は出ていかなければならない。ところがこの3年はアパートを変わらずに住み続けている。中古マンションの売れ行きが悪いのである。中古マンションを売りたいという話も多いという。価格が下がる前に売り抜けたいのであろう。ここ3年にわたり中国の不動産業は不況にあえいでいる、という話はいろいろな人から聞いた。

◆若年層中心に高い失業率

不動産不況が発生すれば、不動産業者に金を貸し付けていた銀行が危機に見舞われる。ごく普通に考えられるシナリオである。ところが「中国工商銀行」「中国農業銀行」「中国銀行」「中国建設銀行」の国営4大商業銀行の不動産業向け貸し出しはそれほど多くなく、資産内容は健全であるといわれている。中国政府は金融緩和を行うとともに、国有銀行を使って住宅ローンの維持、不動産融資の貸しはがし禁止などの措置をとっているようである。

だが、中国の大手銀行の不動産貸し出し割合が低いならば、誰が不動産業に貸していたのであろうか? 中国の地方銀行や外国銀行、「地方平台」と呼ばれる非銀行金融機関、「不動産債券」の発行による資金調達などが考えられるが、実態は不明である。「不動産不況が金融危機に飛び火したら中国経済も大変なことになる」。中国政府もこうしたことは十分承知の上、急激なバブル崩壊を避けソフトランディングを図っているようである。

日本で語られる中国経済の問題点の3番目は「若年層を中心とした失業率の高さ」である。中国都市部の失業率は全体では5.1%(23年12月、中国国家統計局)であるが、24歳未満の若年層に限って言えば21.3%(23年6月、以降公表なし)と跳ね上がっている。

これも「大学卒業者数がコロナ前の800万人から23年の1100万人と急増した一過性のものだ」とする議論がある。しかし中国教育部の資料によると、22年の都市部従業員数は842万人の減少となった。中国の景気悪化を考えると、失業率の改善には時間がかかりそうである。ある日系企業の話であるが、「コロナ前には春節が終わると従業員の30%が戻ってこず欠員が出たが、今年はわずかに5%の欠員だけだった」という。景気の悪化はこうしたところにも出てきている。

◆財政事情が悪化する地方自治体

中国の自動車事情については次稿に譲るとして、最後に日本のマスコミで時々取り上げられる「中国の公務員給与の遅配」問題について触れておきたい。この問題については何ら確たる証拠があるわけでない。現地にいる日本人も時々うわさで聞く程度のようである。ただしこの公務員の給与遅配は「地方政府」ベースで起こっているようである。財政事情の良くない中国辺境部の自治体ではこうしたうわさがあるという。幸い私が今回訪問した上海、重慶、深圳など発展著しい「財政事情が豊かな自治体」からは、こうした声は聞かれないようである。

それでも気になる話は聞いた。こうした地方自治体でも財政状況は悪化しているようである。昨年度の法人税の支払いに対して自治体の歳入不足から「税額の自主的積み増し」の要請があったという。また、かねてから支払いが約束されていた地方自治体からの補助金の支払いが遅れ始めているようである。

中国の経済開発はそもそも政府主導で行われてきた。しかし地方政府の資金が枯渇し始めているとしたら、従来型の経済開発に支障が生じる。中国経済も転換期を迎えているのであろう。

◆確実に悪化している経済

中国経済はここ2、3年で確実に悪化しているようである。その要因は何なのだろうか?

①都市開発型計画経済の終焉(しゅうえん)(住宅乱造と人口減少)

②デカップリングに伴う西側経済との結びつきの希薄化

③「国進民退」に代表される政府の経済関与強化

私は上記の3つにその要因を求める。

こうした要因に対して、中国政府はどのような手を打とうとしているのであろうか?

まず、都市型開発計画の終焉に対しては、前述のとおり不動産不況のソフトランディングを試みている。金融緩和と大手商業銀行を使った緩やかな不動産価格維持などである。1990年代後半の日本の不動産危機やリーマン・ショック前後の欧州、米国はこうした金融緩和策と商業銀行支援で危機を切り抜けてきた。中国政府も日本や欧米の過去の事例は十分研究しているに違いない。金融緩和政策の導入により長期的なデフレに陥る可能性は否定できないが、中国経済の即時崩壊を回避することは可能である。ただし、都市開発による経済浮揚に限界が見えた今、中国経済の次なるエンジンを何に見つけるかは難しい問題である。

次にデカップリング・地政学的対応について考えてみたい。中国政府は先進的技術を中国に取り込みサプライチェーンの内製化を進める「国内大循環」と「一帯一路」政策の推進により友好国との連携を強化する「国際大循環」の「双循環」により苦境を打開しようとしている。前回第262回「閉じこもる大国?―中国 見たまま聞いたまま(その1)」(2024年3月15日付)でも述べた通り、中国国内では「中国第一主義」が跋扈(ばっこ)し始めている。こうした状況で中国政府が再度米国などに頭を下げる形で、デカップリング危機を乗り越えることは考えられない。

幸いにも中国は人口14億人の世界で1、2を争う有望な市場が存在する。「鎖国政策を続けても中国は自国内だけで生き残っていける」と思っている中国人も多く出始めている。中国も鎖国主義に舵(かじ)を切る可能性がある。しかし新技術は多様性の中で生まれる。鎖国主義を採用したら、長期的な技術力の低下が懸念される。

また、資本主義経済の進行に伴う民主化思想の拡大を恐れ、近年中国政府は経済への関与を深めている。1992年「南巡講話」以降の資本主義化の後退である。これも長期的には中国経済の弱体化を招く可能性がある。繰り返しになるが、中国経済がすぐに破綻するとは思わない。ただし、長期的に経済が低迷する懸念も存在する。優秀で強力な指導者層を持つ中国政府が、今後どのような舵取りをするのか注意深く見ていく必要がある。(以下、次回に続く)

※『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』過去の関連記事は以下の通り

第262回「閉じこもる大国?―中国 見たまま聞いたまま(その1)」(2024年3月15日付)

閉じこもる大国?中国 見たまま聞いたまま(その1) 『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第262回

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