小澤 仁(おざわ・ひとし)

バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住27年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。
前回第324回に引き続き、バンコック銀行日系企業部の遠藤優花(えんどう・ゆうか)さんの「アメリカの歴史的形成と現代における経済・社会構造の変容」と題した分析レポート(全3回)の「中」を紹介する。
5)人種構成の変化
①米国は建国以降、世界各国から多くの移民流入が見られたが、下記米国の国勢調査に用いられる地区分類を用いて、現代の人種構成について地区ごとに比較を行う。


②米国全体で最もシェアが大きい人種は白人であるが、移民流入の鈍化、出生率の低下により2024年にかけて人口は約3百万人減少し、割合も56.3%へ減少した。一方ヒスパニックは人口が約32百万人増加し、割合も20.0%へ増加した。中南米からの移民流入が主因である。黒人・アフリカ系アメリカ人は流入が限定的であったため割合は11.7%へ低下したのに対し、アジア人は約11百万人増加し、割合も6.2%へ拡大した。これは高収入雇用や高等教育機会を求める高度人材の流入によるものである。
③地区別の総人口と白人人口の順位は概ね一致している。このことから、白人は各地区の人口規模を規定する基礎的集団であり、地区全体の人口規模と相関を持つと言える。一方、割合はニューイングランド地区など、総人口が小さい地区も上位に位置しており、総人口との相関は見られない。同地区は歴史的にヨーロッパ諸国からの移民流入が多く見られた地区であり、白人割合が高水準に保たれてきたことに起因する。
④ヒスパニック人口の上位は太平洋地区、南西中央地区、南大西洋地区(1-3位)となっており、総人口の上位地区とは一致しない。さらに割合は太平洋地区、南西中央地区に次ぎ山岳地区が3位となっており、ヒスパニックの人口分布は、中南米諸国との地理的近接性に基づいていると言える。
⑤黒人人口の順位については一定程度総人口順位との相関が見られるが、割合は南大西洋地区、南東中央地区、南西中央地区が上位(1-3位)となっている。同地区は過去の奴隷制や人種隔離政策により、黒人割合が高水準に保たれてきたと示唆される。
⑥アジア人人口は、総人口との相関が弱く、割合上位は太平洋地区、中大西洋地区、ニューイングランド地区(1-3位)となっている。アジア人は高付加価値産業や高等教育が集積する地区に海外から移民として流入し、分布していることが想定される。
3章 産業構造の変化がもたらす社会構造の変化
1)各地区と総人口上位10州の概要

①総人口と面積については、明確な相関は見られない。面積が中位の北東中央地区や南大西洋地区(5-6位)が総人口の上位に位置しており、米国の人口分布は土地の広さではなく、都市集積により規定されていると言える。
②総人口と実質GDP(国内総生産)は一定の相関が見られるが、総人口と1人あたりGDPは相関が見られない。総人口では9位のニューイングランド地区や5位の中大西洋地区が1人あたりGDPは上位に位置しており、地区内の高付加価値産業の発展が1人あたりGDPの順位に影響を及ぼしている。
③地区別の総人口、実質GDP、1人あたりGDP順位は総人口上位10州の存在に左右されている。太平洋地区のカリフォルニア州や、中大西洋地区のニューヨーク州のように、総人口・経済規模が突出した州が地区内に占める比重が大きく、地区別順位は一部の巨大州の影響を強く反映していると言える。
④1人あたりGDPは地区ごとの人種構成と一定の関係が見られる。1人あたりGDPが上位の太平洋地区、中大西洋地区、ニューイングランド地区はアジア人割合の上位地区と一致している。一方、1人あたりGDPが下位の南東中央地区や南大西洋地区はアジア人割合が低く、黒人割合が高い。高付加価値産業や高等教育の立地が地区ごとの人種構成と1人あたりGDPに影響を及ぼしていることが示唆される。
2)産業別労働生産性の変化

①2000年時の米国全体の労働生産性上位は金融・不動産(1位)、専門職サービス(2位)、下位は小売(7位)、教育・医療福祉(8位)であったが、2024年時は情報(1位)、金融・不動産(2位)、教育・医療福祉(7位)、建設(8位)と変化した。また、労働生産性26%増加に対し、情報527%、建設-29%と、業種ごとに増減率に乖離(かいり)が生じている。
②2000年時の労働生産性上位は中大西洋地区(1位)、太平洋地区(2位)、下位は北西中央地区(8位)、南東中央地区(9位)であったが、2024年時は太平洋地区(1位)、中大西洋地区(2位)、北東中央地区(8位)、南東中央地区(9位)へと変化した。2024年時に1位の太平洋地区は、地区全体で40%の労働生産性向上が見られ、農・林・漁・鉱業以外の産業で各産業の米国全体値を超過した。一方、8位へ下落した北東中央地区は20.2%の労働生産性向上にとどまった。全産業において米国全体値を下回り、中でも情報産業は最も乖離が見られる産業となっている。
③情報産業(2024年労働生産性1位)において、太平洋地区(1位:932,167)は、中大西洋地区(2位)及び、ニューイングランド地区(3位)の労働生産性を大幅に上回っている。4位以下は米国全体値の560,766を下回り、335,00〜413,000に分布しており、地区間格差が極めて大きい業種である。太平洋地区にはAlphabetやMetaなどの世界を牽引(けんいん)するIT企業本社が集積しており、付加価値額を押し上げていることから、他地区と比較し突出した労働生産性を誇っている。
④金融・不動産業(2024年労働生産性2位)の上位は中大西洋地区(1位:569,452)、太平洋地区(2位:528,963)、ニューイングランド地区(3位:455,814)である。4位以下の地区は米国全体値437,041を下回り、いずれも350,000〜400,000と地区間の差は小さい。中大西洋地区にはJP Morgan Chaseなどの大規模銀行や、Morgan Stanleyなどの投資銀行本社が集中しており、資本市場業務や国際金融取引の中枢として高付加価値を生み出している。太平洋地区ではVisaやPayPalに代表される決済サービスの本社が集積し、ITと融合した高付加価値の金融サービスを提供していることから、中大西洋に次ぎ高い労働生産性を誇る。
⑤農・林・漁・鉱業(2024年労働生産性3位)の上位は南西中央地区(1位:536,044)、山岳(2位:249,189)である。3位以下は米国全体値227,163を下回り、南西中央地区が突出している。南西中央地区はテキサス州がシェールオイル・ガス採掘をはじめとする鉱業が盛んであり、テキサス州単体でも農林漁鉱の付加価値額は209,885百万ドルを誇る。一方、地区全体の雇用者数は約47万人と極めて少人数のため、労働生産性が高い。山岳地区もニューメキシコ州でのシェールオイル・ガス採掘、コロラド州でのモリブデンなどの金属鉱業が盛んのため、労働生産性が高い。
⑥製造業(2024年労働生産性5位)の上位は南西中央地区(1位:195,826)、太平洋地区(2位:187,438)である。3位以下は米国全体地146,676を下回り、製造業全体として労働生産性が伸び悩んだ。南西中央地区は鉱業に関連した石油や化学品製造業が、太平洋地区は情報産業に関連した半導体製品製造が盛んのため、労働生産性が高水準となった。一方、2000年代以降、低コスト・大量生産を誇る中国の台頭により、主に北東中央地区で行われていた自動車製品等の量産工程はメキシコに移された。米国内の付加価値額が増加しづらく、労働生産性の上昇幅も限定的となった。
⑦建設業(2024年労働生産性7位)の上位は山岳地区(1位:85,584)、太平洋地区(2位:83,426)である。3位以下は米国全体値75,157を下回り、米国内で唯一労働生産性の低下が見られた。
⑧教育・医療福祉(2024年労働生産性8位)は全地区で労働生産性が最下位の業種であり、増加率も31%と低調であった。その中でも増加率が40%を超過した太平洋地区、山岳地区はヒスパニック人口の顕著な増加が見られたことで共通している。
⑨米国内で労働生産性上位の情報(1位)、金融・不動産(2位)はいずれも9地区中で太平洋地区、中大西洋地区、ニューイングランド地区が上位。同3地区はアジア人割合の上位3地区とも一致しており、高度人材の集積が労働生産性の向上に寄与していることが示唆される。
3)地区別雇用者数の変化

①2000年時の米国全体の雇用者上位産業は教育・医療福祉(1位)、製造(2位)、小売(3位)であったが、2024年時は、教育・医療福祉(1位)、専門職サービス(2位)、小売(3位)に変化が見られた。米国全体で雇用者数は約38百万人増加。うち、教育・医療福祉は約14百万人、専門職サービスは約9.5百万人増加した。一方、製造約2百万人、情報約1百万人と雇用者の減少が見られた業種もあった。教育・医療福祉の労働生産性は53,230と、全産業で最も低水準(8位)。専門職サービスの労働生産性は161,164(4位)と中位に位置している。両産業は雇用者増加が著しかったことで、労働生産性の増加率は約30%にとどまった。
②米国全体の雇用者29%増加に対し、増加率が高いのは山岳地区、南西中央地区、南大西洋地区、太平洋地区(1-4位)である。いずれの地区も労働生産性上位の情報や金融・不動産(1-2位)の雇用増加は限定的であり、労働生産性下位の小売、建設、教育・医療福祉(6-8位)が、雇用増加の約半数を占めた。同4地区はヒスパニックの人口増加数及び、地区内の割合が大きいことで共通しており、人手を要する低生産性の産業が雇用を吸収したと言える。
③2024年時の米国全体の雇用者上位産業は教育・医療福祉(1位)、専門職サービス(2位)、小売(3位)であるが、北東中央地区、北西中央、南東中央のみ労働生産性が5位の製造が雇用者2位にとどまった。同3地区は地区全体の労働生産性が9地区中で下位(7~9位)であり、製造の労働生産性についても、いずれも米国全体の製造の労働生産性値を下回っている。対して、製造の労働生産性が上位の南西中央(1位)、太平洋(2位)については、製造は雇用者4位の産業へと下落しており、雇用構造上の中核ではなくなっている。製造から労働生産性の高い産業への雇用移転有無が地区全体の労働生産性に影響を及ぼしていると言える。
4)労働生産性と所得水準及び学位取得動向

①学士以上保有者は約40百万人増加し、割合も36.8%へ増加した。所得平均値および所得中央値は約2倍上昇、所得$200,000超の世帯は約7倍に増加したことから、学歴の上昇と所得水準の上昇は相関関係にあると言える。
②所得平均値上位は、太平洋地区(1位:$136,493)、ニューイングランド地区(2位)、中大西洋地区(3位)。4位以下は米国全体平均値を下回り、首位と最下位の差は約$45,000に達する。所得中央値も上位と最下位は同様だが、米国全体中央値を下回るのは5位以下で、所得平均値ほどは地区間の差は開いていない。
③所得$200,000超世帯割合は、太平洋地区(1位:19.8%)、ニューイングランド地区(2位:19.0%)、中大西洋地区(3位:16.5%)、4位以下は米国全体値の13.7%を下回り、最下位は南東中央地区(9位:8.2%)で同一である。
④所得水準上位の太平洋地区、ニューイングランド地区、中大西洋地区は、アジア人割合及び学士以上保有者割合が上位(1~3位)。一方、所得水準下位の南東中央地区はアジア人割合が下位(9位)で、黒人割合が上位(2位)、学士以上保有者割合は下位(9位)。対して、南大西洋地区は黒人割合(1位)、アジア人割合中位(5位)であるものの、所得水準及び学士以上取得割合が中位である。所得水準は人種構成そのものにより決定はされず、学士以上取得割合に左右されると想定される。
⑤所得水準上位の太平洋地区、ニューイングランド地区、中大西洋地区(1~3位)は労働生産性も上位(1~3位)。南西中央地区は労働生産性中位(4位)だが、所得中央値と学士以上取得割合は下位(8位)。同地区は鉱業が労働生産性を牽引しているものの、雇用者数は約2%と少数で、教育・医療福祉と専門職サービスで約35%を占める。うち専門職サービスについては、専門・科学・技術支援サービスの比重が小さく、労働生産性は米国全体値を下回っている。所得水準は地区全体の労働生産性水準のみでは決定されず、学士以上取得割合と密接に関連する高付加価値産業の雇用者数が影響していると言える。
⑥所得平均値上位地区と比較し、所得平均値下位の北西中央地区、北東中央地区、南東中央地区(7~9位)は所得中央値との差額が約$25,000~$27,000と小さい。同3地区は、雇用者数2位の産業が製造であり、労働生産性の高い産業への転換が限定的であることから、高所得者層が薄く、所得平均値が伸び悩んだ。(以下次回に続く)
※『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』過去の関連記事は以下の通り
第324回「米国の歴史的形成と現代の経済・社会構造の変容(上) 米国の概要と成立」(2026年8月14日付)
関連URL:https://www.newsyataimura.com/ozawa-204/











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