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メタバース内の不動産も「デジタル遺産」になる?
『企業法務弁護士による最先端法律事情』第14回

4月 19日 2023年 社会

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北川祥一(きたがわ・しょういち)

北川綜合法律事務所代表弁護士。弁護士登録後、中国・アジア国際法務分野を専門的に取り扱う法律事務所(当時名称:曾我・瓜生・糸賀法律事務所)に勤務し、大企業クライアントを中心とした多くの国際企業法務案件を取り扱う。その後独立し現事務所を開業。アジア地域の国際ビジネス案件対応を強みの一つとし、国内企業法務、法律顧問業務及び一般民事案件などを幅広くサポート。また、デジタル遺産、デジタルマーケティング等を含めたIT関連法務分野に注力している。著書に『Q&Aデジタルマーケティングの法律実務』(2021年刊、日本加除出版)、『デジタル遺産の法律実務Q&A』(2020年刊・日本加除出版)、『即実践!! 電子契約』(2020年刊・日本加除出版、共著)、『デジタル法務の実務Q&A』(2018年刊・日本加除出版、共著)。講演として「IT時代の紛争管理・労務管理と予防」(2017年)、「デジタル遺産と関連法律実務」(2021年、2022年)などがある。

1 「デジタル遺産」とは?

「デジタル遺産」について現状は法律上の定義はありませんが、法的に新たな範囲での検討を行うという文脈においては、故人のデジタル機器に保存されたデジタルデータ及びオンライン上の各種アカウントやそれに紐(ひも)付けられたデジタルデータがこれに含まれ、それら残された故人のデジタルデータのことをいうものと考えます(※注1)。

デジタル遺産となり得るデジタルデータについては、既に社会的に浸透した暗号資産はもちろんのこと、同じくブロックチェーンを利用したNFT(Non-Fungible Token=非代替性トークン)なども近時話題となっています。

NFTの取引額についてみれば、著名なSNS共同創業者の初投稿が約3億円で落札された事例や、老舗オークションハウスが取り扱ったアート作品が約26億円で落札される事例などがあり、非常に大きな財産的価値があるものも発生しています。

標題のメタバース内の土地(無論、現実の不動産ではなく、仮想現実空間での一区画といった意義にはなりますが)についても、240万ドル相当の暗号資産での取引が成立したニュースなども目新しいところです。

デジタル遺産となり得るデジタルデータ

2 メタバース内の不動産とは?

まず、「meta(高次の、超~)」と「universe(宇宙)」とをつなぎ合わせた造語とされるメタバースですが、その定義について現状統一的なものはないといえますが、たとえば、『仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業 報告書』(経済産業省、2021年7月13日ニュースリリース。5頁)においては、メタバースについて「一つの仮想空間内において、様々な領域のサービスやコンテンツが生産者から消費者へ提供」されるものであると定義(仮)されています(※注2)。

多数人が世界中からアバターを操作するなどして参加し、他の参加者との交流やイベントへの参加などができる仮想空間であることは間違いないといえそうです。そして、メタバース内の不動産とは、メタバース内の一区画(メタバース内の「土地」とでも言えるところでしょうか)であったり、メタバース内に構築された構造物を指したりすることとなります。

「不動産」、「土地」、「構造物」という用語が使用されていますが、当然、仮想空間内の話ではあるので、実体のある不動産とは異なり、日本民法上の所有権の対象となるとは考えられないなど(※注3)、法的な権利の性質等については大きな異なりがあるといえます。

もっとも、(権利の性質等に関する法的分析としては上記のような差異があるわけではありますが)メタバース内の不動産の利活用方法やそれに対する投資の目的は、現実の不動産に関するそれらと大きな違いはないといえそうです。

即ち、メタバース内の不動産の保有者は、自ら該当のメタバース内の土地上に構造物を作成し、展示施設や店舗などを運営することも可能であり、また、該当のメタバース内の土地や構造物を第三者に賃貸して収益を得ることも可能とされます。

さらに、該当のメタバース内の不動産の値上がりによるキャピタルゲインを獲得することも可能でしょう。

メタバース内の不動産の購入については、一例として以下のような流れが想定されます。

まず、①暗号資産交換業者を通じるなどして該当のメタバース内の不動産取引に使用可能な暗号資産を購入・取得する。

次に、②該当のメタバース内の不動産取引が行われているNFTマーケットプレイスに接続可能な暗号資産ウォレット(簡単に言えば暗号資産を管理するためのアプリケーション)アカウントを作成し、③その暗号資産ウォレットに購入した暗号資産を送金する。

最後に、④NFTマーケットプレイスに暗号資産ウォレットを接続し、目当てのメタバース内の不動産を購入する――というような流れです。

3 メタバース内の不動産も「デジタル遺産」になり得る

 暗号資産やNFTがデジタル遺産となることはもちろんですが、メタバース内の不動産もデジタル遺産となり得ます。

2でみた取引の流れで取引をされるメタバース内の不動産はNFTに紐付いて取引対象とされていることから、NFTという項目で括(くく)ることもできるでしょう。

暗号資産交換業者を通じた暗号資産取引などと異なるところは、デジタル遺産としての探知の困難性に差がある点と考えられます。

 探知の困難性については、上記2でメタバース内の不動産の購入方法の一例として挙げた②、③のような流れを見ればわかるとおり、暗号資産交換業者との間の(あたかも証券会社との取引と同じような)取引のみによって完結するものではないことから、暗号資産交換業者との間の取引関係のみを調べれば探知できるというものではない可能性があります。なお、近時は日本国内の暗号資産交換業者の運営するNFTマーケットプレイスにおいても、メタバースの土地取引ができるものもあるようであり、このような場合には比較的相続発送時の探知の難易度は下がるかもしれません。

高い財産的価値を有し得るデジタル遺産としてのメタバース内の不動産の保有に気付かずに遺産分割協議を完了してしまった場合には、ごく簡単にいえば分割協議のやり直しをしなければならない可能性が発生してしまうといえます。

遺産分割協議当時発見されておらず協議の対象から漏れていた相続対象財産が重要な財産であり、分割協議を行った相続人がその財産があることを知っていたならば該当の遺産分割協議はなされなかったといえるような場合には、錯誤無効(民法95条)として遺産分割協議の有効性が否定される可能性があるためです。

このように、財産としての探知が従来型の相続対象財産とは異なることがあるのがデジタル遺産としてのメタバース内の不動産特有の問題といえます。

デジタル遺産については、これまで以上に遺産分割協議における相続対象財産からの漏れにも注意が必要となってくるものと考えられます。

(※注1)以下の記事もご参照ください。

第9回 デジタル遺産の法的問題

デジタル遺産の法律問題 『企業法務弁護士による最先端法律事情』第9回

(※注2)なお、同報告書において、仮想空間は「多人数が参加可能で、参加者がその中で自由に行動できるインターネット上に構築される仮想の三次元空間。ユーザはアバターと呼ばれる分身を操作して空間内を移動し、他の参加者と交流する。ゲーム内空間やバーチャル上でのイベント空間が対象となる。」とされています(同報告書4頁)。

(※注3)デジタルデータについて民法上の「所有権」は観念できないことについては、前掲第9回 デジタル遺産の法的問題

https://www.newsyataimura.com/kitagawa-3/ もご参照ください。

※本稿は、私見が含まれており、また、実際の取引・具体的案件などに対する助言を目的とするものではありません。実際の取引・具体的案件の実行などに際しては、個別具体的事情を基に専門家への相談などを行う必要がある点にはご注意ください。

関連書籍:『デジタル遺産の法律実務Q&A』(拙著、2020年刊、日本加除出版)

https://www.kajo.co.jp/c/book/05/0501/40805000001

※『企業法務弁護士による最先端法律事情』過去の関連記事は以下の通り

第13回

「デジタル遺産」に気づかず遺産分割協議をしたら?

「デジタル遺産」に気づかず遺産分割協議をしたら?『企業法務弁護士による最先端法律事情』第13回

第12回「デジタル遺産」となり得るNFT

「デジタル遺産」となり得るNFT『企業法務弁護士による最先端法律事情』第12回

第11回 IT大手企業の「デジタル遺産」機能の追加から考えるデジタル遺産問題

IT大手企業の「デジタル遺産」機能の追加から考えるデジタル遺産問題『企業法務弁護士による最先端法律事情』第11回

第10回 アフィリエイト広告の法律問題

アフィリエイト広告の法律問題『企業法務弁護士による最先端法律事情』第10回

第9回 デジタル遺産の法的問題

デジタル遺産の法律問題 『企業法務弁護士による最先端法律事情』第9回

第8回 社内不正調査などにおける会社管理メールの調査の法的問題

社内不正調査などにおける会社管理メールの調査の法的問題 『企業法務弁護士による最先端法律事情』第8回

第7回 近時のデータ保護規制、中国インターネット安全法関連法規

近時のデータ保護規制、中国インターネット安全法関連法規 『企業法務弁護士による最先端法律事情』第7回

第6回~近時のデータ保護規制、中国インターネット安全法関連法規~

近時のデータ保護規制、中国インターネット安全法 『企業法務弁護士による最先端法律事情』第6回

第5回「デジタルフォレンジック」をご存じですか?(その5)

「デジタルフォレンジック」をご存じですか?(その5) 『企業法務弁護士による最先端法律事情』第5回

第4回「デジタルフォレンジック」をご存じですか?(その4)

「デジタルフォレンジック」をご存じですか?(その4)『企業法務弁護士による最先端法律事情』第4回

第3回「デジタルフォレンジック」をご存じですか?(その3)

「デジタルフォレンジック」をご存じですか?(その3)『企業法務弁護士による最先端法律事情』第3回

第2回「デジタルフォレンジック」をご存じですか?(その2)

「デジタルフォレンジック」をご存じですか?(その2)『企業法務弁護士による最先端法律事情』第2回

第1回「デジタルフォレンジック」をご存じですか?

「デジタルフォレンジック」をご存じですか?『企業法務弁護士による最先端法律事情』第1回

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