米国の歴史的形成と現代の経済・社会構造の変容(下)
宗教・犯罪・政治対立 全体のまとめ
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第326回

9月 11日 2026年 国際

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

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バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住27年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

前々回第324回、前回第325回に引き続き、バンコック銀行日系企業部の遠藤優花(えんどう・ゆうか)さんの「アメリカの歴史的形成と現代における経済・社会構造の変容」と題した分析レポート(全3回)の最終回となる「下」を紹介する。

4章 宗教

①総人口約50百万人の増加に対し、米国全体の宗教信仰者数は約20百万人の増加にとどまった。信仰者割合が3.2%低下し、宗教離れが進んでいる。信仰者数約20百万人の増加に対し、カトリック(約2万人)と主流派プロテスタント(約9百万人)は減少、福音派(約15百万人)・ブラックプロテスタント(約7百万人)・その他(約7百万人)は増加した。宗教離れが進む一方、宗教構成の多様化が進行している。

②2000年時全体の信仰者割合上位は中大西洋地区(1位:59.1%)、ニューイングランド地区(2位:57.4%)、北西中央地区(3位:57.0%)であったが、2020年時上位は南東中央地区(1位:56.83%)、南西中央地区(2位:56.79%)、中大西洋地区(3位:50.1%)へ変化した。南東中央地区・南西中央地区の信仰者割合増加以上に中大西洋地区・ニューイングランド地区の減少幅が大きく、順位変動が見られた。信仰者の増加が見られたのは南大西洋地区、南西中央地区、太平洋地区、山岳地区、南東中央地区であり、その他の地区の信仰者数は減少した。

③地区全体の信仰率が下落したニューイングランド地区・中大西洋地区では、カトリック及び主流派プロテスタントの信仰者・信仰率の減少が見られた。学士以上保有者割合上位(1-2位)かつ所得中央値上位(2-3位)の同地区では個人主義の普及や世俗化の進行により、従来信仰していた宗教から離れる無宗教化が進んだことが想定される。一方、地区全体の信仰率が高水準を保った南東中央地区、南西中央地区は、学士以上保有者割合、所得中央値が下位(8-9位)。信仰者同士の結びつきが強い福音派プロテスタントが主流であり、宗教離れが進みづらいと考えられる。

④信仰者数の増加が見られた5地区(南大西洋地区、南西中央地区、太平洋地区、山岳地区、南東中央地区)は、人口増加率上位5地区と共通している。5地区はいずれも主流派プロテスタントを除き、その他を含む宗教信仰者が増加した。中でも黒人割合上位(1-3位)の南大西洋地区、南東中央地区、南西中央地区では、ブラックプロテスタントの増加が顕著であった。人口流入が多い地区には異なる宗教的背景を持つ海外からの移民や、国内移動者が流入するため、地区内での宗教多様化が進展していることが想定される。

5章 犯罪

①2019年にかけて総人口は約47百万人増加したが、総犯罪件数は3,434千件減少、うち暴力犯罪の減少が179千件、財産犯罪の減少が3,256千件と、財産犯罪の減少幅が大きい。経済的動機に基づく財産犯罪の減少が大きく、学士以上取得者の増加・所得水準の上昇が寄与したと考えられる。

②地区別の総人口と総犯罪件数の順位は概ね一致しており、総犯罪件数は人口規模と相関関係があると言える。対して、人口あたりの総犯罪件数順位は一致しておらず、人口規模と人口あたりの総犯罪件数に明確な相関関係は認められない。

③人口あたりの総犯罪件数上位の南西中央地区、南東中央地区(1-2位)は、学士以上取得者割合及び所得中央値も下位(8-9位)であることから、犯罪発生件数が多い。人口あたりの総犯罪件数3位の太平洋地区、4位山岳地区は学歴及び所得水準は下位ではないものの、両地区は人口流入が大きく、ヒスパニック割合も高い。低所得層の人口流入も伴っていると考えられ、格差の拡大が犯罪発生に影響を与えていることが示唆される。なお、人口あたりの総犯罪件数上位4地区の宗教信仰率は、南東中央地区(1位)、南西中央地区(2位)、山岳地区(6位)、太平洋地区(9位)とばらつきが見られ、信仰率の高さと犯罪発生件数に直接的な相関関係は認められない。

④全地区で総犯罪件数は減少したが、北西中央地区、南西中央地区、山岳地区は暴力犯罪件数が増加した。暴力犯罪は社会環境の影響を受けやすく、人口流入上位の南西中央地区、山岳地区(1-2位)は社会の流動性の高さが、所得中央値の増加が限定的であった北西中央地区は社会の不安定さが影響を及ぼしたことが想定される。

6章 政治対立

①米国全体の大統領選結果を見ると、民主党・共和党の獲得率は過去7回いずれも拮抗(きっこう)しているが、地区に目を向けると、安定的に同一党を支持している地区が確認できる。南大西洋地区、山岳地区、北東中央地区では支持政党の転換も見られた。

②安定した民主党支持地区のニューイングランド地区、太平洋地区、中大西洋地区は学士以上保有者割合および所得中央値がいずれも上位(1-3位)。対して、共和党支持地区の南東中央地区、南西中央地区は学士以上割合・所得中央値が下位(8-9位)である。教育水準と所得水準の差が支持政党に多大な影響を与えていると言える。

③南大西洋地区、山岳地区では、共和党から民主党支持への転換が見られた。いずれも、学歴・所得水準が中位であり、中間層が多い。ヒスパニックを中心とする人口増加上位地区でもあり、地区内の構造変化によって転換が起こったと考えられる。

④北東中央地区では2012年以降、支持政党の揺れ動きが見られる。学歴・所得水準が下位の同地区は、製造業から高付加価値産業への雇用移転が進まず、地区全体の労働生産性増加率も全地区で最下位と経済停滞が見られることから、民主党から共和党への転換が起こっている。

「上」「中」「下」全体のまとめ

▽かつてヨーロッパ列強の植民地であった米国は、建国当初は東海岸の13州に限られている小国であったが、西海岸に至るまでの領土拡大と、海外からの移民流入を背景に建国からわずか約250年間で世界最大の経済規模を誇る大国へと成長した。

▽20世紀前半まではヨーロッパ諸国から白人の流入が多く見られたが、1965年の移民法改正をきっかけにヒスパニックやアジア人の流入が急増し、人種の多様化が進んだ。中でもアジア人は、高付加価値産業や高等教育が集積する地区に集中している。

▽各地区の総人口は面積規模のみでは規定されず、地区内の都市集積により規定されている。山岳地区は面積は上位も、総人口上位10州に含まれる州がなく総人口は中位。一方、南大西洋地区は面積は中位も、総人口上位10州に3州が含まれ、総人口は首位。

▽各地区においては、いずれも沿岸部に立地する人口上位10州が実質GDP(国内総生産)や1人あたりGDPの大きさを左右している。太平洋地区は米国への編入が遅い地区であるが、実質GDP1位のカリフォルニア州が存在し、最も経済規模が大きい地区となった。

▽2000年からわずか24年の間に、米国内の産業構造に大きな変化が見られた。米国経済の中核であった金融・不動産を凌駕(りょうが)するほどの情報産業の発展、シェールガス・オイル採掘開始による鉱業の発展、従来の雇用の中心であった製造業の停滞が確認される。

▽米国内では労働生産性の高い高付加価値産業への移行が進められたが、移行が遅れた北東中央地区では経済停滞が見られた。中国の台頭により伸び悩む製造業から高付加価値産業への移行が進まず、地区全体の労働生産性の伸び率は全地区で最下位となった。

▽米国全体では人口増加に伴い雇用者数の増加が見られたが、情報産業などの高付加価値産業の発展は必ずしも雇用増加を伴わず、教育・医療福祉や専門職サービスなどの産業が雇用の受け皿となった。両産業は雇用者数増加が著しく、労働生産性の上昇は限定的であった。

▽人口および雇用者数の増加は、経済規模や所得水準が上位の地区以上に、中位の南西中央地区や山岳地区で見られた。同地区はメキシコと近接しヒスパニックの流入も多いことから、教育・医療福祉などの人手を要する低付加価値産業が新たな雇用を吸収した。

▽米国全体では高付加価値産業への移行とともに、学士以上保有者の増加や所得水準の上昇が見られた。学士以上保有者割合が高い地区では高付加価値産業が発展し、所得水準が高い傾向にある。一方、産業移行が遅れた地区では所得水準の伸び悩みが見られた。

▽地区内の人種構成は直接的には地区の所得水準を規定していない。南大西洋地区は黒人割合が上位、アジア人割合は中位だが、学歴や所得水準は中位であり、地区内の人種構成以上に高付加価値産業の雇用者数の多寡(たか)が、学歴や所得水準に影響を及ぼしている。

▽高学歴化・高所得化により、米国内の宗教信仰者割合は減少、世俗化が進んだ。学歴・所得水準上位のニューイングランド地区や中大西洋地区では他地区と比較し宗教離れが顕著であり、カトリックや主流派プロテスタントの信仰者は減少、信仰率は低下した。

▽人口流入が大きい南西中央地区や山岳地区では、地区全体の宗教信仰者の増加、信仰率の上昇が確認された。主流派プロテスタントを除き信仰者が増加、福音派プロテスタントやブラックプロテスタントなど比較的新しい宗教の興隆も見られ、多様化が進んだ。

▽米国内の総人口は増加した一方、総犯罪件数は著しく減少した。財産犯罪の減少幅が大きく、高学歴化・高所得化が犯罪の抑制に寄与したと考えられる。学歴・所得水準が下位の南西中央地区・南東中央地区では人口あたり総犯罪件数の減少が限定的であった。

▽総犯罪件数および財産犯罪は全地区で減少したが、暴力犯罪は一部の地区で増加が見られた。人口流入が多く流動性が高い南西中央地区や山岳地区、経済停滞が見られる北西中央地区で暴力犯罪件数が増加したことから、社会環境の変化により誘発されると考えられる。

▽大統領選の結果は各地区の産業構造や社会構造に基づく政治志向が反映されており、高付加価値産業が発展し学歴や所得水準が高い地区は民主党支持、高付加価値産業の発展が限定的であり、学歴や所得水準が低い地区は共和党支持と明確に二分されている。

▽過去7回の選挙において、従来とは異なる党が勝利し、支持政党の転換が起こった地区も見られた。南大西洋地区や山岳地区は人口流入による地区内の構造変化、北東中央地区は経済停滞による将来不安や不満の蓄積を要因とし転換が起こったと考えられる。(了)

※『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』過去の関連記事は以下の通り

第325回「米国の歴史的形成と現代の経済・社会構造の変容(中) 人種構成の変化と産業構造の変化がもたらす社会構造の変化」(2026年8月28日付)
関連URL:https://www.newsyataimura.com/ozawa-205/

第324回「米国の歴史的形成と現代の経済・社会構造の変容(上) 米国の概要と成立」(2026年8月14日付)
関連URL:https://www.newsyataimura.com/ozawa-204/

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