п»ї “バンコク封鎖”フェスティバル『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第13回 | ニュース屋台村

“バンコク封鎖”フェスティバル
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第13回

1月 17日 2014年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住15年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

バンコクは至る所で、お祭り騒ぎである。バンコク市内7カ所の通りが封鎖され、その近辺では「タクシンいらない、インラック出てけ」のシュプレヒコールが届く。リーダーの掛け声に合わせ、人々は笛(ホイッスル)を吹き鳴らす。人々は「バンコク封鎖」と書かれたTシャツを着たり、タイ国旗があしらわれた帽子をかぶったりして街に繰り出していく。車道には食べ物や物売りの屋台が並び、人々はショッピングを楽しむ。まるで休日の歩行者天国にいるような錯覚を感じる。

夜になるといくつかの会場では、有名歌手が来てコンサートが開かれている。その様子は“バンコク封鎖”と銘を打った一大フェスティバルそのものである。日本で流されているタイの騒乱のニュースと全く異質な光景である(封鎖場所に近いところなどで一部影響を受けている方に対しては申し訳ありません)。

◆なぜ偏向記事ができるのか?

なぜ、これほどに間違った情報が日本で流されるのであろうか?

第一に、日本の報道のあり方そのものの問題である。記者は自分の記事を取り上げてもらうためにはニュース性をもたさなければならない。「今、タイで起こっていることが何も特殊なことではない」とする報道(現地リポート)ならば、ニュースとして取り上げられる可能性は少なくなる。記者の実績は何も残らない。それよりは、危険性を誇大化し、記事として取り上げられるように画策する。しかし、これは情報のねつ造に近い。多くの日本人が誤解する。

一方、その多くの日本人のほうも問題なのかも知れない。

結果としての行き過ぎた平等社会が実現した日本は、何とかして他者の不幸を探すことによって「相対優位」を探そうとしているように見える。「タイの不幸は日本の幸福」。こんな感情が多くの日本人の中に無意識に存在しているような気がする。

さらに3番目の問題として、現在の日本人が持つ責任回避志向である。「現状、特に問題はない」として人々に伝達したあと何か起こったら、その責任をとらされるのではないか? これは何もマスコミに限ったことではない。地震情報や自治体などが出す避難指示など、今の日本は「魔女狩り」が横行する。

こうしたことを予防する上で、すべての対応は保守的になる。今回のことについても「タイのリスクは高い」と言ってさえおけば、何か起こっても非難される可能性はなくなる。

◆タイの安全性リスク

それでは、タイは今後とも安全なのか?

現状はほとんど問題ないとしても、今後リスクは高まってくると私は見ている。そもそも、現在のタイの混乱には大きく分けて3つのグループが関わりあっている。①軍部、官僚、司法を根城とするタイ人②商売から富を成し、民主党を介して政治に関与する潮州系華僑③客家(ハッカ)のタクシンを抱き新たな勢力拡大を目指す新興勢力――である。このいずれもがタイの支配者階級側に属するため、彼らは、自分たちの成立基盤である既存の経済構造を破壊することは望まない。

私がタイに住んでいるこの16年間のうちに、かつて2度ほど、経済活動を大きく損なう政治混乱があった。それは、チャムロン将軍(元副首相、元バンコク都知事)によって起こされた黄シャツの空港占拠事件と、赤シャツによる商業施設破壊事件である。この2つはいずれもタイの貧困層で組織した部隊によってなされている。今回の騒動ではこれまでのところ、こうした人たちは関与していない。こうした貧困層もしくは学生が絡むと、騒乱へと発展する可能性が高まる。

また、現在のタイの政治状況は3つのグループによるこう着状態と言える。現状、事態が動く可能性があるとすれば、以下の3つが考えられる。
 
①インラック首相が退陣、もしくは国外退出
②バンコク都民が今回のお祭り騒ぎに飽きてデモが自然消滅する
③武力衝突が起きクーデターが発生する(必ずしも軍部によるクーデターではなく、民衆クーデターの可能性も)

今は、タクシン派も反タクシン派も決め手に欠き、状況を見守っている。しかし、武力衝突が起きた場合、タイも安全ではなくなる可能性がある。この場合でも、貧困層や学生がどの程度絡むかによって安全性の度合が大きく異なると思う。

封鎖された通りは祭りの縁日さながらの平和なにぎわいを見せている=バンコク市内で、筆者撮影

デモというより仮装パーティーに出るようないでたちの参加者=バンコク市内で、バンコク週報提供

タイ国旗をあしらった「デモグッズ」を売る露天商。お土産にいかが?=バンコク市内で、バンコク週報提供

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