「信用」から日本を考える
第5回 信用貨幣とは何か(その4)
『視点を磨き、視野を広げる』第91回

10月 12日 2026年 経済

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古川弘介(ふるかわ・こうすけ)

海外勤務が長く、日本を外から眺めることが多かった。帰国後、日本の社会をより深く知りたいと思い読書会を続けている。最近常勤の仕事から離れ、オープン・カレッジに通い始めた。

◆はじめに
 前稿では、信用貨幣説を理論面から検討した。本稿では、信用貨幣説によって現代の貨幣や金融システムを整合的に説明できること(論点1)、また、現在の金融実務だけでなく、歴史的形成過程とも整合すること(論点2)を検討したい。
 経済全体に供給されている通貨総量(マネーストック)は、現金通貨(銀行券発行高+硬貨)と預金通貨(要求払い預金)の合計である(=M1)(*注1)。2026年6月末現在のM1は、現金通貨110兆円に対し、預金通貨987兆円と預金通貨が大部分(90%)を占めている。預金通貨は法定通貨(強制通用力がある通貨)ではないが、現代の貨幣の主役なのである。

「論点1」では、信用貨幣説から現代の金融システムを説明する。民間銀行の負債である預金通貨が、なぜ貨幣として受け入れられるのかという視点から考察する。すなわち――貨幣とは「信用システム」であり、口座振替による「決済システム」、中央銀行に代表される「制度的な枠組み」によって支えられていることについて考えたい。
 「論点2」では、その説明が単なる理論上のモデルではなく、現実の「信用システム」「決済システム」「制度的枠組み」がどのように形成されてきたかという歴史とも整合することを検討する。ここで参考とするのは、金井雄一(名古屋大学名誉教授)の著書『中央銀行はお金を創造できるか――信用システムの貨幣史』(以下「本書」)である。金井は、預金口座による振替決済システムを歴史的に考察し、現代貨幣システムを「信用と決済のネットワーク」として捉えるのである。

◆論点1:信用貨幣説から現代の貨幣・金融システムを説明する
 信用貨幣説から現代の貨幣・金融システムを――「貨幣とは何か」「信用創造」「内生説」「信用システム」「決済システム」――の面から検討していきたい。

(1)貨幣とは何か→債権・債務関係の記録である:
 ①信用貨幣説では、貨幣の本質を「債権(信用)・債務(負債)関係の記録」であると定義する。したがって中央銀行券は中央銀行の負債であり、銀行預金(預金通貨)は銀行の負債である。
 ②貨幣は誰かの債務(負債)である。それは、別の誰かの債権(信用)として、経済活動の内部の信用需要(企業や家計の借り入れなど)と信用供給(銀行の貸し出し)の両方があって生成される。後述するように貨幣の供給という観点から、「内生的貨幣供給論(内生説)」と呼ばれる。

(2)銀行による信用創造:
 銀行が企業や家計に貸し出しを行うとき、他の誰かの預金を原資として「又貸し」しているのではない。銀行が借り手の口座に数値を記帳するだけで、新たな預金(貨幣)が生まれる。
 ①→これを企業・家計から見れば、銀行に対する預金という「債権」を得ると同時に、借入金という「債務」を負う。
 ②→銀行から見れば、貸出金という「債権」を得ると同時に、預金という「債務」を負う。
 ③→企業・家計と銀行の間に、貸し出し(信用取引)が行われると、債権・債務関係が発生することによって貨幣(預金通貨)が生成され、これを「信用創造」と呼ぶ。
 なお、こうした銀行の信用創造の仕組みについては、イングランド銀行が論文(*注2)で公式に認めているように、中央銀行など金融実務派の見解は、信用貨幣説の信用創造と整合していると言える。

(3)貨幣はどのように供給されるか(内生説):
 中央銀行は「お金をいくらでも刷れる」と言われるが、中央銀行券の供給は一方的にできるわけではない。お金は、中央銀行や民間銀行から実体経済(企業・家計)へ以下のように流れていく。
 ①中央銀行が、実体経済にお金を供給する仕組み(マネタリーベースの供給)として、銀行からの国債の買い入れや銀行への貸し出しがある。この場合中央銀行は、対価として銀行が中央銀行に持つ当座預金の帳簿上の残高を増やせば良い。中央銀行は、当座預金という「負債(通貨)」を創出することができるのである。ただし必ず対価となる「資産(国債、貸出金)」を相手方(民間銀行など)から取得する信用取引の先行が必要である。
 ②中央銀行券が世の中に供給されるのは、銀行が手元現金が必要になって中央銀行当座預金を引き出し、中央銀行の窓口で中央銀行券を受け取る場合である。銀行の預金の一部が引き出されると、中央銀行券が実体経済で流通する。したがって中央銀行券の流通量は、民間部門の現金需要によって受動的に決まることになる。
 ③預金通貨は、銀行が企業や家計に貸し出しなど信用供与を行うことによって実体経済に供給される。その貸し出しの実行には、借り手の信用需要と銀行側の信用供給の両方が必要である。その意味で、預金通貨は中央銀行が「外生的」に数量を決定するものではなく、信用取引の中から「内生的」に生成されるのである。

(4)「信用システム」という視点
 ここまで、民間銀行の信用供与によって預金通貨が生成され、その預金が決済手段として流通する金融の仕組みについて見てきたが、本稿ではこの仕組みを「信用システム」と呼ぶことにする。「信用システム」は、民間銀行によって企業や家計に信用供給された預金通貨が貨幣として流通し、平時は効率的なシステムとして機能する。
 一方で信用供給の拡大は、信用リスクの増大を伴う。どこかで信用が棄損する可能性があり、信用が棄損すると、預金の安全性への不安が生じる。そうすると預金通貨から現金(中央銀行券)への交換需要が集中する可能性がある。それに応えるために、銀行は流動性の確保が急務となる。
 「信用システム」は、そうした不安定性を内包しているのであり、それゆえ中央銀行の「最後の貸し手」機能が必要になるのである。
 信用システムは、中央銀行と民間銀行だけではなく、決済システムをはじめとするさまざまなシステムとの関係の中で機能している。中でも決済システムは重要である。

(5)決済システムという視点
 「決済」と「口座振替」に関して整理しておきたい。すなわち――通貨の保有主体である企業や家計が、財・サービスを売買した時、取引相手との間に債券・債務関係が生じる。この債券・債務関係は「決済」によって消滅する。
 「決済」の方法は、現金決済と非現金決済(カード決済、電子マネー、コード決済、口座振り込み・口座振替など)がある。非現金決済は、最終的に買い手の預金口座から資金が引き落とされ、売り手の預金口座に資金が振り込まれるという口座間の資金移動によって完了する。日本の個人消費額に占める非現金決済の数字は70.6%である(*注3)。企業の決済を含めた正確なデータはないが、全ての取引における非現金決済の比率はさらに高いと思われる。したがって現代の決済システムは預金通貨によって機能していると言え、預金通貨→決済→口座振替を一体で捉える視点が必要である。
 また、預金保険制度によって、決済に用いられる要求払い預金(当座預金等)は「無利息、要求払い、決済サービスを提供」の3条件を満たせば、銀行破綻(はたん)時に全額保護される。これらは、決済手段としての要求払い預金の重要性を考慮して設けられたセーフティーネットであり、制度的な枠組みの一つである。
 ここまでの考察で――信用取引の先行→債権・債務関係の発生→信用創造による預金通貨の生成→決済ネットワーク→中央銀行貨幣との額面交換を含む制度的な枠組み――について考察した。
 民間銀行の負債である預金通貨が、貨幣として受け入れられている理由をまとめたい――
 ――はじめに信用取引があって債権・債務関係が生じる。民間銀行の信用創造によって、預金通貨が生成される。信用システムは中央銀行の最後の貸し手機能によって維持されている。したがって預金通貨が貨幣として受け入れられるのは、信用システムが機能し、預金が決済システムの中に組み込まれ、中央銀行貨幣との額面交換を含む制度的な関係の中で機能しているからである――。
 では、それはどのように成立したのだろうか。以下、本書を参考に「振替決済システムの形成」、「振替決済を基盤とした信用創造」、「中央銀行」について検討していきたい。

◆論点2:歴史的制度化
(1)振替決済システムの形成:アムステルダム銀行
 中世から近世にかけて、ヨーロッパではモノの移動と決済に時間差が存在する信用取引(為替手形による商品の売買→後日に決済)が広く行われるようになっていた。いわゆる商業信用である。
 しかし、最終的に現金(ソブリンマネー)(*注4)による決済(債権・債務関係の消滅)を行う際に、商工業者の観点からは問題があった。なぜなら貨幣は国によって異なるため、両替商や出納業者が活躍したが、商工業者が求める貨幣単位の統一や(“さや抜き”のない)安定した決済が十分とは言えなかったためである。
 この問題を解決したのが、「口座振替による決済サービス」であった。すなわち――銀行は商工業者から様々な種類の貨幣を預金口座に受け入れ(帳簿上の数値が「バンクマネー」)、口座間の振替機能を使って決済する仕組み――である。当時の国際交易の中心地であったアムステルダム市によって1609年にアムステルダム銀行が設立された。同行は、口座振替によって帳簿上の残高を振り替えることで決済する仕組みを実現し、アムステルダムを欧州最大の金融市場に押し上げたのである。
 帳簿上の数値である「バンクマネー」は、イマジナリーマネー(想像上の貨幣)である。その価値は安定していたという。金井は――帳簿上の想像物であるバンクマネーの方が、安定的な決済を可能にすることが認識され、後のイングランド銀行による近代中央銀行制度創設に繋(つな)がっていった――としている。なお、アムステルダム銀行は、貸し出しは行っていなかった。銀行信用による預金創造は、次に登場する英国のゴールドスミス銀行によって実現された。
 今日の振替決済システムも基本原理は同じである。中央銀行に民間銀行が当座預金口座を持つことで、銀行間の振替決済システムが機能する。企業や家計は民間銀行に預金口座を持てば、(同じように口座を持つ)他の企業や家計と振替決済が可能になるのである。

(2)振替決済を基盤とした銀行信用・預金創造:ゴールドスミス銀行
 17世紀の英国では、ロンドンの金細工商であったゴールドスミス(金匠)が、両替・金貨などの保管を行うようになっていた。17世紀半ばには、預金を受け入れ→受領証を発行し→顧客の当座勘定を開設し→預金振替などによる出納代行・決済サービスを提供する銀行になっていた。
 多くのゴールドスミス銀行は、有力2行に勘定を持っていた。これによってゴールドスミス銀行相互間でも預金振替による「清算(相互の貸し借りを計算して整理する)」が可能になっていた。
 金井は――金融機関同士の振替決済を行うことができるシステムができれば、個別銀行の与信には「現金」は要らず、顧客の口座への記帳で、貨幣を創造できる。帳簿に記帳した数字が預金通貨として機能する――としている。すなわち、振替決済システムの形成によって、「預金が貨幣として機能するようになった」のである。

(3)銀行間決済と中央銀行化→イングランド銀行
 次に、なぜ民間銀行のイングランド銀行が中央銀行になっていったのかについて、歴史的経緯を見ていきたい。
 17世紀末の英国では対仏戦争の戦費として多額の資金を必要としていた。主にロンドンの大商人や金融業者が出資する民間銀行としてイングランド銀行が、政府への融資のために創設された(1694年)。イングランド銀行は特権(勅許〈ちょっきょ〉状によって株式会社組織を認められた)を与えられ、その見返りとして政府に貸付を行った。
 イングランド銀行は、口座保有者に対して「ランニングキャッシュ手形(預金の受領証)」を渡した。この手形は、債務証書であり、のちの「一覧払い兌換(だかん)銀行券」の原型となった。金井は、ここでも信用の先行が前提となっていることを指摘する。すなわち――イングランド銀行は、この手形を自由に発行できるわけではなく、まず同行と顧客の間で債権・債務関係が形成される必要がある――。
 一般的には、イングランド銀行は1844年のピール銀行法によって中央銀行となったとされる。イングランド銀行への発券集中規定が含まれていたからである。
 しかし、金井は、民間銀行として出発したイングランド銀行は、時間をかけて次第に「銀行の銀行」という位置付けになったのだということを実証的に示していく。そして、その位置付けの確立が「同行自身の収益や安全性ではなく金融機構全体を考慮した金融政策(バンクレート操作)の実施や、金融パニック時の秩序維持機能(最後の貸し手)をもたらした」としている。
 こうして「金融機関相互間の決済の最終的清算を担う銀行が確立した」のである。金井は――資本主義の金融機構は、振替決済システムを土台に持ち、それを前提とした信用供与によって貨幣(預金)が創造される内生的貨幣供給体制が確固とした形を得た――と述べている。

わたしは、金井の論考を以下のように理解した――
 ①銀行の預金振替機能の発達も、中央銀行としてのイングランド銀行の地位の確立も、金融実務の中で歴史的に成立していったことを実証的に示した。
 ②わたしは、こうした金井の歴史的・実証的研究が示すのは――信用のシステムは最初から合理的に制度設計されたものではなく、長い時間をかけて社会の仕組み(法律、組織、慣習など)の中に深く組み込まれてきた、すなわち歴史的に「制度化」されたのだ――と考える。

「論点1」では、「信用・決済」という現在の構造を説明し、「論点2」は、その構造が歴史的にどのように形成されてきたかを金井説によって説明した。それによって銀行の振替決済システムが機能することで信用創造が生み出されたこと、信用と決済のネットワークが金融実務の中で形成されたことによって、民間銀行であったイングランド銀行が中央銀行の位置に収まっていった経緯が明らかにされたと言えるのではないかと考える。

◆まとめ
 現代の貨幣の大部分を占めるのは預金通貨である。法定通貨ではない預金通貨が貨幣の機能を果たしているのは、銀行の信用創造によって生まれた預金が、決済システムに組み込まれ、制度的な枠組みによって安定を支えられているからである。
 金井の歴史研究からは、こうした信用・決済・中央銀行の関係が、最初から完成された制度として与えられているのではなく、信用取引と決済実務の発展の中から歴史的に形成されてきたことが読み取れる。
 したがって、現代の貨幣は「(内在価値を持った)モノ」そのものではなく、国家による主権に基づく発行だけでその機能を説明できるものでもないと考える。信用取引によって生成され、決済ネットワークの中で貨幣として機能し、さらに中央銀行などの制度によってその安定性が支えられている。すなわち、現代の貨幣は、信用と決済のネットワーク、およびそれらを支える制度の組み合わせとして理解することができる。
 では、このような信用創造の仕組みは、実体経済における企業活動にどのように繋がるのであろうか。今後の論考における課題としたい。

<参考書籍・文献>
・『中央銀行はお金を創造できるか――信用システムの貨幣史』(金井雄一〈放送大学教授〉、名古屋大学出版会、2023年6月初版)
・『イングランド銀行公式 経済がよくわかる10章』(イングランド銀行〈ルパル・パテル&ジャック・ミーニング〉、スバル舎、2023年8月初版)
・『社会経済の基礎』(松原隆一郎〈放送大学教授〉、放送大学教育振興会、2025年3月初版)

(*注1)日本銀行は、マネーストック統計において、対象とする通貨の範囲に応じて、「M1」、「M2」、「M3」、「広義流動性」という4つの指標を作成・公表している。M1は、最も容易に決済手段として用いることができる現金通貨と預金通貨から構成されている。預金通貨は要求払い預金(当座、普通、貯蓄、通知、別段、納税準備の各預金)で構成されている。(出所:日本銀行ホームページ)
(*注2)イングランド銀行は2014年第1四半期の発行季刊誌(Quarterly Bulletin)に民間銀行の信用創造に関する論文(Money creation in the modern economy)を発表した。また、『イングランド銀行公式 経済がよくわかる10章』_第7章「そもそもお金って何?」ではその内容をわかりやすく解説している。
(*注3)資料の出所は『キャッシュレス決済実態調査2023(速報)』NIRA総合研究開発機構(2023.09.29)。
(*注4)ソブリンマネーとは、領主などの主権者が統治権を行使して発行した強制通用力を持った法定通貨。5世紀後半以降、支配者の名前を刻印したソブリンマネーが製造されるようになった。(出所:『経済社会の基礎』松原隆一郎放送大学教授)

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