山田厚史(やまだ・あつし)
ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。
直面する難題に立ち向かう気力がない時、どうでもいい小事にかまけることで、考えることから逃げる。ありがちなことだが、政党や国会がそんなふうでは、この国に未来はない。
自民・日本維新の会・国民民主の3党は10月29日、衆院の議員定数を比例区で31議席減らし434議席にすることで合意した。
いったい、これはなんなのか。日本の国会議員の数は、諸外国に比べ多すぎるどころか少ない、というのが実情だ。それをさらに減らそうというのは「政治家はろくなものではない」という政治不信に政治家自身が同調しているかのようだ。
◆内政も外交も難題山積 政治は「議員定数」で右往左往
与党である自民と維新が国会で「議員定数削減」に動いていることは報じられていた。しかし野党は否定的で、自民党内部でも「維新に同調することはない」という声もあり、国会を通過するのは難しいだろう、と見られていた。
議員定数は、当選者の数に直結する。政党にとっては関心事だろうが、多くの有権者は「なぜ今、議員の数を減らすのか」と訝(いぶか)しく思っていた。というより、いま政治が取り組むような課題とはほとんどの人は考えていなかった。それが急転直下、国民民主が賛成に回り、実現する。
今の日本は大変な状況にある。震災や豪雨など災害に見舞われ、住宅・道路・鉄道などの復旧もままならない。政治の対応は遅く、多くの被災者は日常が戻らないまま取り残されている。
国民は物価高に悲鳴を上げる。発端はウクライナ戦争だ。もう4年も続いている。イラン戦争が火に油を注いだ。原油や食糧が値上がりし、インフレが広がり、世界的に金利が上がりだした。政府も物価対策に追われる。ガソリン補助金や食料品消費税の引き下げ、その財源が見当たらない。
同盟国アメリカはトランプ大統領が何をするかわからず、日本を頭越しに中国と接近した。北朝鮮とも首脳会談をするらしい。日本は中国敵視を続けていていいのか。アメリカからは防衛費の増額を迫られ、歳出は膨張する。財政は逼迫(ひっぱく)し、増税や国債の増額は避けられそうにない。
そんな時、ネット社会は弱点を晒(さら)した。不正アクセスや情報漏洩(ろうえい)が洪水のように起こり、企業も政府もどう対処していいのか、皆目わからない。
内政も外交も難題が山のようにある。そんな時、政治は「議員定数」で右往左往している。
◆「定数削減」は政権を維持する「連立の道具」
「身を切る改革」を掲げる維新は、行政の非効率を問題にし、まず「議員を減らすこと」で改革の先頭に立つ、と訴えてきた。大阪では「行政のリストラ」は一定の評価を得た。勢いに乗って全国に組織を広げ「日本維新の会」となったが、国会では野党の一つでしかなく、主導権を発揮できないでいた。
チャンスが訪れたのが、高市政権の誕生だった。公明党が連立から離脱し、与党入りを目指していた維新に幸運が舞い込んだ。自民党は、国民民主と維新を天秤(てんびん)にかけ、維新を選んだ。維新は「2枚看板」である副首都の制度化と議員定数削減を連立の条件として挙げ、政策合意書に盛り込んだ。
「定数削減」に関心なかった自民党も合意書によって維新と共に「公約」に掲げた。「定数削減」は、政治改革・選挙制度改革という本来の目的から外れ、政権を維持する「連立の道具」として扱われるようになった。
衆院議長の下に設置された「衆議院選挙制度に関する協議会」で各党が議論し、5月には有識者4人を呼んで意見聴取が行われた。
中北浩爾(こうじ)(中央大学法学部教授)、竹中治堅(はるたか)(政策研究大学院大学教授)、大泉淳一(選挙制度実務研究会会長)、大山礼子(駒澤大学名誉教授)の4氏が意見を述べた。「定数削減」に賛成する有識者はなく、3人は否定的な見解を表明した。
中北氏は「日本の議員定数は国際比較でも歴史的に見ても少ない」と指摘し、「身を切る改革が目的なら、議員を減らす代わりに調査研究広報滞在費や政党交付金を削減する方法がある」と提案した。
竹中氏は「議員を削減すれば、国民の意見を国政に伝える経路が減る。議員を既得権益層とみなし『身を切る改革』の対象とすることは、政治的な手法の一つにすぎない」述べた。
大山氏は「比例代表の定数を大幅に減らすと、現行の小選挙区比例代表並立制を実質的に別の制度に変えてしまう恐れがある」と指摘した。大泉氏は、選挙制度の比較・解説に徹し、賛否には触れなかった、
「定数削減を積極的に主張した有識者はいなかったのではないか」と6月30日の衆院政治改革特別委員会で問題となった。法案提出者の日本維新の会・金村龍那(かねむら・りゅうな)議員は「地方の声が国会に届かなくなるという懸念は認識している」と答えながら、「選挙制度改革の結論を得ることは必要だ」を説いた。
◆「数で押し切る」乱暴なやり方が進む国会
国民の代表である国会議員を減らす、それも比例区の議席に限定する。その結果、どんないいことがあるのか。むしろ懸念されることばかり。「定数削減」は、有識者の指摘を待つまでもなく、議論として破綻(はたん)している。それがわかりながら、「数で押し切る」乱暴なやり方が国会で進んでいる。
自民が引きずられているようにも見えるが、維新の背後に高市首相がいる。党内基盤が万全でない首相を右から支えているから。国旗損壊罪、スパイ防止法、旧姓の通常使用、対中ミサイル配備、防衛費増額……。高市色の濃い「右路線」に同調し「自民党の抵抗勢力から高市首相を守る」という姿勢だ。
公明との連立が崩壊した時、党副総裁の麻生太郎は国民民主との連立を模索した。ほぼ決まりかけていた時、維新が割り込んだ。高市首相は、肌合いの近い維新を連立の相手に選んだ。
ただ維新だけでは参議院の過半数に届かない。高市政権の泣きどころは参議院。さらなる野党抱き込みが必要だった。
国民民主の玉木雄一郎代表は、党勢拡大には「政策を実現する力」が必要と考える。万年野党では果たせない。政権ににじり寄り、連立も視野に入れつつ、是々非々。政権があと一歩であがいている時、手を差し伸べ、見返りを求める。それが国民民主の戦術だ。
定数是正は都合のいい「協力案件」だった。「わが党は定数削減に反対していない。ただ、理屈がいる」と玉木は最近になって言いだした。
理屈づけとして「人口減少」を持ち出し「19議席削減なら」と提案した。維新は「45議席」を主張し、自民は折衷案の「31議席」を示した。
国民民主は「比例区の統一名簿」「小中政党に配慮した議席配分」など条件をつけて折り合った。国民民主が加われば参議院の壁を突破できる。維新は妥協した。
玉木は「理屈がいる」と言ったが、人口減とか統一名簿などは「賛成」に回る言い訳に過ぎない。有識者が指摘する「議員定数は国際比較でも歴史的に見ても少ない」「国民の意見を国政に伝える経路が減る」などの根幹に関わる論点に答えていない。
◆有権者からますます遠ざかる政治
衆議院の選挙制度に関する協議会は、現行の小選挙区制は民意を反映しているか制度の在り方を再点検する組織のはずだった。それが、大事な議論を差し置いて、党利党略の場になった。
結果、維新は看板政策の実現にこぎつけた。国民民主は政権の一角に食い込んだ。自民は弱点である参議院の勢力を補強した。3党それぞれ利益を得たが、国民と政治をつなぐ絆(きずな)はどうなるのか。
政治は、ますます有権者から遠ざかる。
その先に何が起こるのか。(文中一部敬称略)











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