複雑な脳の仕組みを模倣し単純化
大きく進化した生成AI(上・全3回)
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第329回

10月 23日 2026年 文化, 社会, 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

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バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住27年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

猛烈な勢いで進化する生成AI(人工知能)。「AIは人間の能力を超えて、いずれ人間を滅ぼすかもしれない」という懸念がもはや冗談ではなくなりつつある。記憶容量や計算能力・速度などでは人間のはるか先を行くのは知っての通りである。最近では「チャッピー君」などと称して、自分の意のままに動く友人や恋人に仕立て上げる人もいる。

1950年ごろから本格化し始めたAIの研究。しかしその当時のAIはまだ大型コンピュータを指していた。その後何度かのAIブームを経て2022年にChatGPTが登場して爆発的なヒットとなり、生成AIが我々の身近なものとなった。この生成AIの登場には、いくつかのブレークスルーとなる技術革新があった。それらの多くは私たちの人間の脳の仕組みの解明に基づいたものであった。

人間の発明の大半は自然界の模倣(もほう)によって生まれる。今回は宮城県の七十七銀行からバンコック銀行日系企業部に出向している福島将太(しょうた)さんがまとめた生成AIに関するレポート「生成AIについて」を一部抜粋して、脳を模倣した生成AIの開発過程を3回(上中下)に分けて紹介する。

1.生成AIと従来のAIの違い

①生成AIとは、文章・画像・動画などの新たなコンテンツを生成する人工知能の総称。従来のAIが既存データの分析・分類・予測を主目的としていたのに対し、生成AIは学習データのパターンをもとに、新規のアウトプットを作り出す点に大きな特徴がある。

②中核技術には深層学習(ディープラーニング)が用いられており、文章生成では大規模言語モデル(LLM)が代表的。ビジネス(文書作成・議事録要約・プログラミング支援)、教育、医療・製造・行政など幅広い分野で活用が進んでいる。

【表1:従来のAIと生成AI】

出典:AIに関する各種ウェブサイトを参考に筆者作成

2.自立した勉強方法の確立―機械学習

①機械学習とは、コンピュータが大量のデータから規則性やパターンを自動的に学習し、未知のデータに対しても適切な出力を行う技術。従来のプログラムが人間による明示的なルール定義を必要としたのに対し、機械学習はデータから判断基準を自ら形成できる点に特徴がある。

②機械学習は学習と推論の二段階で機能する。学習では大量のデータから規則性を発見し、正解との誤差をもとにモデルの内部パラメータを繰り返し調整する。推論では学習済みモデルに新しいデータを入力し、学習したパターンをもとに予測・判断を行う。

【表2:従来のプログラムと機械学習】

出典:AIに関する各種ウェブサイトを参考に筆者作成

【図1:機械学習のプロセス(学習と推論)】

出典:AIに関する各種ウェブサイトを参考に筆者作成

3.人間の認知方法―ニューラルネットワーク

人間の脳の働きを解明していくうちに、人間の記憶方法がわかってきた。それが「ニューラルネットワーク」である。私たちは物体の認識においてその物体の要素を分解して記憶する。例えば「リンゴ」であれば甘い、酸っぱい、おいしい、丸い、固い、赤い、緑色、5-10センチの大きさ、ほのかに匂う、などの様々な要素を神経細胞に蓄積する。そして実際のリンゴを見たときに過去の記憶したデータを総合してリンゴであることを認識するのである。その分散型の記憶方法を担うのが神経細胞(ニューロン)をつなぎ合わせたニューラルネットワークである。

まず脳の神経細胞の動きとAIにおける人工的なニューロンの比較を行う。

①ニューラルネットワークは、人間の神経細胞(ニューロン)の働きを数学的に模倣した機械学習手法。多数のノードが相互に接続された「入力層・中間層・出力層」から構成され、各ノードは複数の入力値を受け取り、それぞれに重み(入力の重要度)を掛けて合計し、バイアスで補正した後、活性化関数を通じて次の層へ出力を伝達する。

②中間層を複数持つことで、入力データの特徴を段階的に整理し、人間が細かいルールを与えなくても複雑なパターンを学習できる点が本質的な特徴である。

③このニューラルネットワークの中間層をさらに大幅に増やした手法がディープラーニング(深層学習)である。

【図2:ニューロンの構造】

出典:Pixabay

ニューロンは、他の神経の軸索末端にあるシナプスから放出された神経伝達物質を樹状突起で受け取り、細胞体内で電気信号に変換する。その電気信号は軸索を伝わって軸索末端のシナプスに達し、そこで神経伝達物質として放出されることで、次のニューロンへ信号を出力する。ニューロンとノードは共に、複数の入力と1つの出力を持つ構造を持つ。

【図3:ノードの構造】

出典:AIに関する各種ウェブサイトを参考に筆者作成

4.ディープラーニング(深層学習)

次にAIのニューロンを多重に組み合わせて、脳のニューラルネットワークの模したものを利用してできたのがディープラーニング(深層学習)である。

【図4:ニューラルネットワーク(深層学習)の構造】

出典:AIに関する各種ウェブサイトを参考に筆者作成

①ディープラーニングは、ニューラルネットワークの中間層を数十・数百層と多層化した機械学習手法。従来の機械学習では人間が特徴を事前に設計する必要があったが、ディープラーニングは多層構造により特徴抽出そのものを自動化できる点に本質的な特徴がある。

②層が深くなるほど抽象度の高い特徴を表現できる。例えば画像認識では、低層でエッジや色を捉え、中間層で形状・模様を把握し、最終層で物体の種類を識別するという段階的な処理が行われる。

③音声認識・画像認識・自然言語処理など幅広い分野で従来を大きく上回る精度を実現し、翻訳・音声アシスタント・自動運転支援など現代AIの中核技術となっている。

5.人間とAIのニューラルネットワークの違い

【表3:ニューロンとノード】

出典:AIに関する各種ウェブサイトを参考に筆者作成

人間の脳の仕組みとAIの仕組みを比較したものが上記表3である。AIは「0と1」を表す電気信号のやり取りで情報の伝達を行い、次の中間層にデータを伝送する。ところが人間の脳は「+・-」の3種類のイオン電子を活用してニューロンの中で一定の量(しきい値)を超えるとデータが次の神経細胞に伝わる複雑な仕組みとなっている。

また860億個の神経細胞(ニューロン)は1個当たり約1万本のニューロン(神経細胞)が出て、これが自在に860億個の神経細胞につながっている。すなわち判断の選択肢が100兆個あることに等しい。これに対して単純な2進法を使うAIではいくら構造を大きくしても現状1兆個までの情報量になる。

他方、これだけの情報量を扱う脳の神経細胞であるが、エネルギー効率は極めてよく、AIに比して推論一回当たり10分の1程度のエネルギーしか消費しない。

6.言語を生成AIの中で使用するために

生成AIは言語をそのまま理解しているわけではない。コンピュータは数値しか扱えないため、文章は「分割」→「数値化」→「意味を持つ数値表現」へと段階的に変換される。この仕組みが生成AIの言語処理の基盤となっている。

まず一つ一つの言葉に番号を振っていく作業がある。この番号を「トークン」と呼ぶ。

6.1 トークン(Token)

トークンとは、文章をAIが処理可能な最小単位に分割したもの。各トークンには固有の数値IDが割り当てられ、コンピュータは文章を数値の列として扱えるようになる。この処理をトークナイゼーションと呼び、文章をAIが扱うための最初の工程である。

【図6:トークナイゼーション】

出典:AIに関する各種ウェブサイトを参考に筆者作成

6.2 ベクトル表現(Embedding)

ベクトルは数学的に近似値を判断できる最適な手法である。具体的な説明は次回の原稿に譲るが、今回は文章にベクトル表現を使う方法について説明する。

①ベクトル表現(Embedding)とは、各トークンを多次元の数値配列(ベクトル)として表現する仕組み。学習によって意味の近い語ほど似た数値表現になり、意味の遠い語ほど大きく異なる値になる。この「語の意味を数値的な距離として表す」方法を「分散表現」と呼ぶ。

②単なる数値IDでは語の意味や関係性を表現できないため、ベクトル表現が必要となる。これにより、コンピュータは語同士の類似性や文脈上の関係を計算として扱えるようになる。

【図7:なぜベクトル表現が必要か】

出典:AIに関する各種ウェブサイトを参考に筆者作成

今回は人間の脳のニューラルネットワークを模倣して作られてきた「生成AIの仕組み」を説明した。本文中でも説明したとおり、脳の仕組みはAIよりもかなり複雑にできており、かつエネルギーの消費量も比較にならないほど有効にできている。生物の誕生以来41億年の歳月がたっている。こうして登場した人類の「脳の構造」は、生物進化の歴史の重さを感じさせるほど複雑にできている。

一方で、2進法でしか判断できない単純な人工物のAI。それゆえの恐怖もおぼえる。24時間働き詰めでも、また単純作業の繰り返しでも音を上げないAI。単純なゆえに猪突猛進するAI。人間とは構造も働きも違うゆえの恐ろしさがある。こうした恐ろしさを知るためにも、私たちは生成AIの仕組みを少しでも知る必要がある。(以下、次回に続く)

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