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食文化の機械学習
『みんなで機械学習』第37回

4月 09日 2024年 社会

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山口行治(やまぐち・ゆきはる)

o株式会社ふぇの代表取締役。独自に考案した機械学習法、フェノラーニング®のビジネス展開を模索している。元ファイザージャパン・臨床開発部門バイオメトリクス部長、Pfizer Global R&D, Clinical Technologies, Director。ダイセル化学工業株式会社、呉羽化学工業株式会社の研究開発部門で勤務。ロンドン大学St.George’s Hospital Medical SchoolでPh.D取得(薬理学)。東京大学教養学部基礎科学科卒業。中学時代から西洋哲学と現代美術にはまり、テニス部の活動を楽しんだ。冒険的なエッジを好むけれども、居心地の良いニッチの発見もそれなりに得意とする。趣味は農作業。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。

◆制作ノート

英国の経済学者エルンスト・シューマッハー(1911~1977年)の「スモール イズ ビューティフル」における中間技術の提案を、「みんなで機械学習」として実現するため、「スモール ランダムパターンズ アー ビューティフル」という拙稿を連載している。前回は、ビジネスのPDCA(Plan,Do,Check,Action)サイクルをAI(人工知能)で高速回転する、CAPDサイクルについて考えてみた。社会的責任能力のない現在のAIでは、リスクの大きい社会プロセス(自動運転や教育など)へのCAPDサイクルの実装は危険すぎる。電動工具のDIY(Do It Yourself)ショップのように、AIを生活のDIYツールとして、ゆっくりと楽しむシナリオが、急ぎ過ぎない成熟した社会には必要だろう。「スモール ランダムパターンズ アー ビューティフル」は途中の画像以降なので、制作ノートに相当する前半部分は、飛ばし読みしてください。逆に言うと、制作ノートは形式にこだわっていないので、まとまりがないけれども読みやすいかもしれません。

「スモール ランダムパターンズ アー ビューティフル」のゴールは、結論を論理的に構築することではなく、生活のライフサイクルにおいて、データの世界との共存・共生・共進化に希望を実感することにある。近代的なモノの価値に従属する経済から、コト(サービスなど)の意味を重要視する経済への移行を時代背景として、近未来のデータサイエンス テクノロジー アンド アート(データの世界)が、人類の文明論的な変革をもたらす夢物語を、少なくともディストピアとはしない、複数の探索路を切り開こうとしている。物語のゴールにおいては、意味が認知される以前の「データ」そのものが、みんなの機械学習によって、「言語」とは別の、文明の道具になるだろう。

◆満ち潮と引き潮で波は回る

サーフィンを楽しむ人たちであれば、波が回る実感があるだろう。前進するだけではうまく回らない。前進と後退をくりかえして、回りながら前進するのが波動だ。社会も、おそらく革新派と保守派がくりかえしながら、前進している。筆者の「ニュース屋台村」の記事では、前進と後退の波動性を、「愛と冒険の物語」として、7年前からくりかえし考察してきた(※参考;『データを耕す』第6回「コーディングの魔術と『辞書の国』」〈2017年4月27日付〉)。企業のビジネスにおいても、特にイノベーションに注力する企業では、革新的技術の冒険だけではなく、失敗を寛容に認めて、学習する組織として成長するために、愛情は不可欠だ。生成AIの爆発的な技術革新によって、ビジネスでAIを活用するイノベーションが加速している。しかし、加速されたビジネスは、反社会的になりうる。産業革命における公害のようなものだ。AIビジネスは、速度も規模も蒸気機関より桁(けた)外れに大きいので、公害が発生してから対処するのでは、人類滅亡のシナリオになりうる。本稿では、AI技術の引き潮について、考えてみたい。

◆神すなわち自然の周辺で生活する人びと

ユダヤ教会から破門されたユダヤ人で、カトリックからも発禁本とされた、17世紀オランダの哲学者、バールーフ・デ・スピノザの哲学は、ありえたかもしれない別の近代を示唆する、難解な哲学だ。スピノザの「神すなわち自然」から、ニーチェの「神は死んだ」まで、明らかに中世とは異なる近代哲学の、哲学の自由の王道だった。哲学の自由とは無関係に、政治経済の自由主義は、産業革命の近代から、資本主義の現代に至っている。スピノザの哲学では、「神すなわち自然」が中心になるので、人間中心ではない。スピノザは社会の周辺で、つつましく生活することを好んだ。しかし、スピノザは、周辺にいる人間の内側(神すなわち自然)だけではなく、周辺の外側にも自然があることに気づいていたのだろうか。

外側の自然は、神の光がないので、人間には理解することができない、果(は)てがあるのか無いのかもわからない自然だ。現代的に言うと、数式と確率としてだけ記述できる自然で、因果関係のような、合理的な理解を拒否する自然だ。外側の自然で、最も身近なのは、熱力学のシステム(系)と「系」以外の「環境」だろう。「系」には内部エネルギーが定義され、「環境」は一定温度に保たれた水槽など、「系」の特性を理解しやすいように定義される。「環境」は宇宙空間でもよいけれども、通常の熱機関の動作を理解するときに、宇宙空間までは必要としない。しかし、熱機関が膨大になって、地球の温度を変化させるのであれば、宇宙空間へ熱を放出することも、考慮する必要があるかもしれない。AI技術における「環境」は、宇宙空間のような、好都合な熱の捨て場がない。外側の自然が、社会の内側に、くりこまれたような、複雑な「環境」であるため、AI公害が発生したら、人類の生存環境にとって、破滅的になる可能性がある。

◆イノベーションの9画面表現モデル

以前、ビジネス関連特許をフェノラーニング®で機械学習することを想定して、ビジネス関連特許の9画面表現モデルについて記載したことがある(※参考;『みんなで機械学習』第9回「ビジネス関連特許の9画面表現モデル」〈2021年9月22日付〉)。CAPDモデルからの影響が明白で、生成AI以前の段階であったため、AI技術のリスクよりも、AI技術を使ったビジネスによって、社会的課題を解決することに期待していた。過去はデータ収集のフェーズで、未来は、予測モデルの作成に対応している。生成AI以降の、とても強力になったAGI(汎用人工知能)では、データの収集も、予測モデルの作成も、デジタル時間の「現在」で処理される。人間的な意味での過去や未来は、デジタル時間では無意味なので、CAPDモデルを使い始める前に、よく考えておく必要がある。

ビジネス関連特許の9画面表現モデル(※参考;『みんなで機械学習』第9回)

ビジネス関連特許に限定していたので、企業の内部における表現モデルとなっているけれども、より広範囲な社会システムと関係して、社会が急速に変革されるリスクが伴うときには、企業(や組織)の外部(周辺)からの評価を、表現モデルとする修正が必要だ。特に、AI技術の満ち潮と引き潮を意識して、AI技術が個人や社会にもたらすネガティブな効果や問題点を、あらかじめ想定して予防することも、重要なイノベーションとなる。

◆周辺の人びと、中心の人びと

世界の中心から神がいなくなり、ニュートン力学のような合理的な自然像だけでは自然が記述できなくなった近代以降は、人間中心の政治経済と、周辺の人びとの政治経済に乖離(かいり)ができた。経済的な格差であり、政治的な支配力の偏在だ。筆者の組織論は、組織の中心部の特異点近傍での評価ではなく、組織の周辺を積分することで、特異点を解消しようとしている。社会における周辺の人びとの民主主義と、社会の中心の人びとの民主主義(専制的な権威主義も含めて)においても、安定してデータで評価できるのは、周辺の人びとの民主主義だろう。周辺の人びとには、移民や難民も含まれる。筆者の好みでしかないけれども、周辺の人びとのイメージとして、『カムイ外伝』(白土三平)を思い出す。『カムイ外伝』は、不思議と、スピノザの哲学に通じるところがあるような気がしている。

◆食文化の機械学習

美味(おい)しいと感じる食事は、多分、健康に良いだろう。ダイエットや健康のために、食事をスマホアプリで記録していると、いろいろ気がつくことがある。筆者は、ガンの食事療法を経験した時から、食事療法の効果と限界に興味がある。幸い、最近は高血圧と動脈硬化を心配するようになり、食事の記録を続けている。ダイエット以外の食事療法は、あまり医学的根拠がないので、ほどほどにするのが良いかとは思うけれども、自分自身の体調を自覚するためには、食事の記録はとても役に立つ。特に、飲酒を記録すると、反省することも多いけれども、美味しくお酒を飲める幸せも実感できる。しかし、スマホアプリは、栄養学の影響が強く、カロリー計算や、タンパク質の量の分析が中心で、個人差や個人の体調には配慮していない。せめて、美味しかった、食欲の有無ぐらいは記録できるように設計してもらいたいものだ。食事のフェノラーニング®(個体差の機械学習)として、自分でスマホアプリを作って、自分で試すのも面白そうだ。もちろん、そのスマホアプリは、みんなで機械学習しながら、各自がプログラミングできるようにする。

食事の機械学習はできるとして、食文化の機械学習は難易度が高い。中国料理、フランス料理、イタリア料理など、レストランのメニューが必ずしも食文化というわけでもない。日本の食文化を、和食レストランのメニューから学ぼうとしても、限界があることは明らかだろう。食文化というからには、食事をどのように楽しむのかということが重要で、料理の種類はその一部でしかない。王侯貴族の豪勢(ごうせい)な料理から、B級グルメまで、食文化の奥行きは深い。そもそも、機械学習で、「文化」を学習することが可能になるかどうかも疑わしい。機械学習によって、タンパク質の立体構造が正確に予想できるようになっても、それは「自然科学」といえるかどうかも疑わしい。機械学習やAI技術は、満ち潮を好むビジネスに役立つレベルにはなってきたけれども、まだまだ、引き潮も含めた哲学的な「反省」のフェーズは弱い。食文化を、みんなで機械学習するのが楽しみだ。

藪(やぶ)の中 2024年3月19日 筆者撮影

『スモール ランダムパターンズ アー ビューティフル』

1   はじめに; 千個の難題と、千×千×千×千(ビリオン)個の可能性

1.1 個体差すなわち個体内変動と個体間変動が交絡した状態

1.2 組織の集合知は機械学習できるのか

1.3      私たちは機械から学習できるのか

2   データにとっての技術と自然

2.1 アートからテクノロジーヘ

2.2 テクノロジーからサイエンス アンド テクノロジーへ

2.3 データサイエンス テクノロジー アンド アート

2.4 データサイクル

2.5 データベクトル

2.6 局所かつ周辺のベクトル場としてのデータとシミュレーション

3  機械学習の学習

3.1 解析用データベース

3.2 先回りした機械学習

3.3 職業からの自由と社会

3.4 認知機能の機械学習とデジタルセラピューティクス(DTx)

3.5 学習は境界領域の積分的探索-ニッチ&エッジの学習理論

3.6 機械学習との学習

4  機械学習との共存・共生・共進化-まばらでゆらぐ多様性

4.1 生活と経済の不確実性

4.2 生活と経済に関連する技術は、何を表現しているのか

4.3 スモール データ アプローチ-個体差のまばらでゆらぐ多様性

4.4 まばらでゆらぐ多様性の過去・現在・未来

4.5 生活の不確実性を予測する

4.6 弱い最適化脆弱性/反脆弱性からのスタート

4.7 ひとつのビッグ予測、たくさんのスモール適応

5  自発的な小組織(seif-motivated small organizations)

5.1 社会、地域、家族 vs. 国家、企業

5.2 組織は組織でできている組織サイクル

5.3 機械学習する組織

5.4 CAPDサイクル(前稿)

5.5 ビジネス表現の個体差(AI中心8画面周辺モデル)(本稿)

個体差の機械学習(フェノラーニング®)は、個体差の表現を考えることから始まる。スズメたちの個体識別からヒントを得て、性別や年齢も含めて、個体差は立ち位置の表現を理解することだと仮定している。このような仮定であれば、個体が組織であっても、組織の立ち位置を明確にすることで、組織の個体差を機械学習できるだろう。前稿では、地域の中小企業において、人間が中心ではなく、AIを中心として、PDCA(Plan、Do、Check、Action)サイクルを高速に回すCAPDサイクルの、可能性と危険性について議論した。中小企業のビジネスは、個体差が大きく、多様性に富んでいる。本稿では、中小企業のビジネスにおける個体差は、何を表現しているのか考えてみたい。

以前、ビジネス関連特許をフェノラーニング®で機械学習することを想定して、ビジネス関連特許の9画面表現モデルについて記載したことがある(※参考;『みんなで機械学習』第9回)。CAPDサイクルであれば、4画面で十分なのだけれども、組織の周辺を外からの視線で評価することを想定して、9画面表現モデルを修正して、8画面周辺モデルとしてみた。前稿では、最近の生成AIの進展と限界、特にハルシネーション(事実に基づかない情報を生成する現象)の問題を考えて、固有名詞を認識してピン止めする(※「ピン止め」は筆者の造語;例えば、同一時刻に同一人物が、異なる場所に存在できない、などの制限をつけることに対応する)ことを提案した。固有名詞のピン止めは、電子メールなどの大量の電子データを使った米国の訴訟E-Discoveryにおいて必須のIT技術で、2001年のエンロン事件以降に急速に発展したAI以前のIT技術だ(※参考;米国訴訟と電子情報開示(E-Discovery))。8画面周辺モデルでは、Where、Who、When、Whatに対応する固有名詞をピン止めしている。その順番にはあまり意味がない。ビジネスでは、Whatは製品やサービスなどの商標権や特許権に対応するだろう。Whoは組織の個人というよりも、顧客の組織を想定している(中小企業のB2Bビジネスの場合)。Whereは地域や業種などで、Whenは過去・現在・未来に対応しているつもりだけれども、固有名詞としてピン止めできるのは過去の時刻だけだ。

AI中心の8画面周辺モデルにおいて、空白の4画面はCAPDに対応するつもりで、周辺に回転方向を示す矢印を記載した。問題は、4辺をピン止めして、どのように回転するのかということで、当然、2次元のままでは回らない。折り紙の風車のように、ピン止めする4辺を中心に重ね合わせて、3次元にすれば、固有名詞をピン止めしても回転できるようになる。回転のイメージが明確なのは、2次元と3次元で、4次元以上になると、回転の自由度は高まるけれども、単純にはイメージできなくなる。実際のビジネスが、4次元以上の複雑な対称性を持っていたとしても、ビジネスの表現としては2次元が分かりやすいので、ピン止めをしたCAPDサイクルであっても、回転できると仮定すれば十分だろう。CAPDサイクルにおいて、Checkでデータを収集する。Actionではデータから予測モデルを作って、Planで仮説を作り、Doで検証する。現在の生成AIでは、仮説を作ることは苦手としているけれども、ビジネスにおける仮説のパターンを機械学習すれば、なんとかなるだろう。古典的な意味での(専門用語では頻度論)統計的な検証であれば、高品質で十分な量のデータがあれば、比較的単純な計算問題となる。個体差が大きい場合は、ベイズ統計のほうが相性が良くて、計算は難しくなる。特に、CAPDサイクルのように、何度も仮説検証をくりかえすのであれば、事前情報を活用するベイズ統計が有利だ。いずれにしても、筆者としても、機械学習をくりかえしながらベイズ統計を行った経験がないので、慎重な議論が必要であることを強調しておきたい。

技術的な問題は別としても、ビジネス表現の個体差にとって、本当の難問は「文化」の差異だと思われる。

生成AIの技術基盤となっている大規模言語モデル(LLM)は、当初は(テキストマイニングの時代)、英語の単語の連鎖として文章を解析していた。深層学習で文章を機械学習する場合、単語を細分化した音韻の連鎖として学習することで、大きなブレークスルーとなった。日本語は、単語の区切りが不明確なので、むしろ現在のLLMには相性が良い。そして驚いたことに、英語で学習した内容が、日本語でも無理なく応用できて、英語と日本語で、それぞれ文章を生成することで、翻訳ができてしまう。英語と日本語の差異などは、言語表現と画像表現の差異に比べれば小さな差異なので、画像から文章を、もしくは文章から画像を生成する生成AIにしてみれば、言語間の翻訳は、比較的簡単な応用課題なのかもしれない。

言語の差異が文化に影響することは容易に想像できる。しかし、言語の差異は、想像していた影響よりも、小さいのかもしれない。食文化はどうだろうか。中国料理とフランス料理は、明らかに異なる。しかし、高級レストランでいただく上等な料理と、ラーメンやクレープなどのB級グルメの差異のほうが大きいかもしれない。筆者の想像では、食文化の原点は、狩猟が中心の民族と、採取が中心の民族で、それぞれ食物の準備と、食事の流儀が異なっていたことではないかと思う。農耕以降では、穀物をいかに保存して、美味しく調理するのかということで、多様化したのだろう。その意味では、AIの時代になると、AI農業からAI食文化が生まれても不思議ではない。連載も終わりに近づいて、AI農業という、重たい課題に突き当たった。連載開始当初から、AI技術の農業応用には興味があったのだけれども、自動運転技術と天気予報ぐらいしか思い浮かばなかった。まさかAI食文化から、個体差を考慮した栄養学や健康関連事業などの発想が生まれて、AI農業が、近未来のデータサービス産業の中核的役割を果たすことなど、想像もしていなかった。次シリーズを考えるためにも、残り少ない連載予定ではあるけれども、AI農業の夢を大きく膨らませてゆきたい。

◆次回以降の予定

5.6 組織の周辺積分的思考

5.7 データサービス商品を創出する知的自由エネルギー産業(AI農業を中心として)

6  おわりに;生活と社会のビューティフル ランダム パターンズ

(中里斉 モナド; Hitoshi Nakazato, Monado)

6.1 ほとんど色即是空・空即是色な世界

6.2 観測できないブラックホールは実在する?

6.3 データ化する私(datanize me)

6.4 延長されたフェノラーニング®

作家は2度死ぬ、作品は死なない

※過去の関連記事は以下の通り

『データを耕す』第6回「コーディングの魔術と『辞書の国』」(2017年4月27日付)

https://www.newsyataimura.com/yamaguchi-112/#more-6549

『みんなで機械学習』第9回「ビジネス関連特許の9画面表現モデル」(2021年9月22日付)

https://www.newsyataimura.com/yamaguchi-59/#more-12244

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