重ねる対話、治療共同体の動き方-退院促す精神医療(2)
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第121回

12月 18日 2017年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

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一般財団法人福祉教育支援協会専務理事・上席研究員(就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括・ケアメディア推進プロジェクト代表)。コミュニケーション基礎研究会代表。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般社団法人日本不動産仲裁機構上席研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など経て現職。

◆「共同体」という名前

のぞえ総合心療病院(福岡県久留米市・堀川公平院長)は久留米駅からバスで約20分、街道のバス停を降り、小さな田んぼを横目に向かうと、なだらかな丘にある。

病棟施設を中心にグループホームなどの関連施設が隣接している一帯の入り口で、「コミュニテ 風と虹」という母体の医療法人名が記されたサインが出迎える。この名前は2005年に前身の医療法人光生会から改称したもので、名称の中に目指すべき医療のエッセンスが取り込まれているという。

「風」は旧来の医療に新しい風を吹き込もうという気概を示し、隔絶された場所での閉鎖的な医療からの変革をも意味する。「虹」は変革のポイントである地域との連携を示す「架け橋」を象徴的に表した言葉。そして「コミュニテ」はフランス語で共同体を意味し、同病院が目指す「治療共同体」の思想に通じている。

丘を登っていくと、グループホームなどの関連施設があり、病院施設のエントランスにたどり着く。多様な緑の表情に囲まれた建物に威圧感はない。自然との共生を目指そうという控えめな様相が病院の顔となっている。

◆理想のメニンガー

7000坪の敷地に150床の精神科病院である同病院施設は2005年に完成した。建築する際の理念は、「患者や家族の方だけでなく、スタッフにも、そして自然にもやさしい病院作り」「建物だけでなく、敷地環境も含めた病院作り、風、水、緑、光、空、雲……を感じ得る病院作り」「我が国の精神医療をとりまく制度(診療報酬、精神保健福祉法)を踏まえるだけではなく、精神力動学的にも納得できる病院作り」とした。
それは「病院らしくする必要はない」(堀川院長)が基調になっているようで、「建物も内装も家具も小ホテル風とし、病院敷地には起伏を生かした遊歩道、四季の花々が楽しめる庭、そして集える場所づくりに腐心した」という。

設計を担当した環・設計工房の鮎川透氏は「施設内いろいろな所にベンチやコーナーを設け、患者が自分にとって心地よい居場所を見つけられるように配慮」し、実際に患者同士の談笑の場がいたるところで見られる。屋外でもバスケットポストのある広場や大楠を囲む広場、芝生の広場、あずまや、カフェテラスなどが周回道路で繋がっており、先々に居場所がある、という演出になっている。

堀川院長にとってこの原風景は、留学した米国カンザス州トピーカにあったメニンガークリニックだ。堀川院長曰く、「小高い丘の上、深い森に囲まれ、緑まぶしき芝に覆われた広大なキャンパス」は「建物にしても自然にしても、スタッフにしても、患者にしても、そこには精神科の治療に必要なものだけではなく、人生に必要なものすべてがあった。わが国の伝統的な精神科病院では決して見いだせなかった私のめざす精神科病院の姿が、文化がそこにはあった」。

その理想を日本で描いたのが現在の病院だ。完成前にメニンガー財団のロイ・メニンガー理事長が「ここにメニンガーがあるじゃないか」と言われことは、堀川院長にとって大きな誇りだ。

◆「子供」想定でゾーン分化

病床は救急病棟80床、急性期病棟60床、療養病棟10床の計150床で、疾患や病勢期の違いで対応を的確に行うために、病棟内を詰所中心に、観察室、保護室と個室からなるPICU、閉鎖ゾーン、開放ゾーンの四つのゾーンに分けた。各ゾーンにはデイルームと浴室などがそれぞれ設置されている。

考え方として、観察室は新生児想定として、最も緊密な対応が必要という認識のもとに配置され、PICUは乳児想定、閉鎖ゾーンは幼児想定、開放ゾーンは学生想定、とし、だんだんとスタッフとの密な関わりあいから、患者同士の関わり合いに移行するのをイメージしている。

これらゾーンの中心にあるナースステーションが開放的なのは、「音を聞くためです。何かを準備する音、それは生活の音で、患者に安心を与えます」(野田文子・副看護部長)という。

同時にデイケアを含む外来部門も、心理室や集団精神療法室、ホールを含めて入院部門とほぼ同じ面積を確保し、約400名の外来患者にも対応できる機能を備えている。

また病院内中心にあるホールも講演だけではなく、体育館として活発に利用されている模様で、この日もソフトバレーで患者らは、大声で掛け声を上げながら、熱の入ったプレーを楽しんでいた。

印象的なのは食堂とテラスで、緑の中に白いパラソルがおしゃれな雰囲気で、病院の食堂とはかけ離れた印象だ。食堂内には楽器があり、昼に医師らが頻繁に演奏をするという。

「のぞえには緑があり、空気と風が感じられる。それが治す仕掛けでもあります」。

施設を見渡しながらの野田副看護部長の情緒的な表現が印象的だ。どこからでも見える緑は種類が多く、見ていて楽しい。テラスを見ながら堀川院長が苦笑いをしながらこう言う。

「これ造った時ね、急に不安になっちゃって、本当に出来るんだろうかって、そんなこと言ったら女房(堀川百合子副院長)に『何、今更言ってるのよ』って叱咤(しった)激励されてね」。

それが開設前日の心境だったという。

この病院の基本理念である「この世にある全ての資源を治療の為に」との考えには、施設の必須条件であり、施設も治療資源であり、その資源とともに同病院の「治療共同体」の考えが展開されているといえよう。

※『ジャーナリスティックなやさしい未来』過去の関連記事は以下の通り
第115回 相模原事件を考え、学び、語らうことを続けたい
http://www.newsyataimura.com/?p=6821

第120回 重ねる対話、治療共同体の動き方―退院促す精神医療(1)
http://www.newsyataimura.com/?p=7074#more-7074

精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
http://psycure.jp/column/8/

■ケアメディア推進プロジェクト
http://www.caremedia.link

■引地達也のブログ
http://plaza.rakuten.co.jp/kesennumasen/

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