п»ї 「パナマ文書」より租税特赦法案優先(?)の政府『東南アジアの座標軸』第20回 | ニュース屋台村

「パナマ文書」より租税特赦法案優先(?)の政府
『東南アジアの座標軸』第20回

5月 20日 2016年 国際

LINEで送る
Pocket

宮本昭洋(みやもと・あきひろ)

りそな総合研究所顧問。インドネシアのコンサルティングファームの顧問も務め、ジャカルタと日本を行き来。1978年りそな銀行(旧大和銀)入行。87年から4年半、シンガポールに勤務。東南アジア全域の営業を担当。2004年から14年まで、りそなプルダニア銀行(本店ジャカルタ)の社長を務める。

◆現職閣僚の名前も明らかに

タックスヘイブン(租税回避地)のパナマの法律事務所から流出した「パナマ文書」により、世界各国の要人の脱税と思しき行為が白日の下にさらされて、経済格差のため貧富の差が増す各国で大きな問題となっています。インドネシアにおいても現時点で千人を超える財閥華僑、政治家や官僚の存在が明らかになっており、国外に流失している金額は推定2300兆ルピア(約1800億ドル)とされています。

ジョコ・ウィドド大統領の側近であるルフット政治・法務・治安調整大臣や、ジャカルタ~バンドン間の高速鉄道プロジェクトを中国に受注させたリニ国営企業大臣の存在も明らかになっています。ちなみに、この高速鉄道計画は主務官庁である運輸省が、合弁事業会社に対して全工区にまたがる600ヘクタールの用地買収について各地権者の同意が必要であると主張して建設許可を出しておらず、先行きが危ぶまれています。

ルフット氏は、元陸軍大将でワヒド政権当時に貿易大臣を務めた後、民間事業に転じて石炭関連ビジネスで財をなしたとされ、個人資産額は6600億ルピア(約50億ドル)にのぼるとも報告されています。この人物は最近では、米系鉱山会社フリーポートインドネシアの事業契約延長に絡む株式譲渡の裏工作疑惑でも当事者の一人として話題になりました。

ジョコ大統領は、インドネシアの政財界の大物が職務権限を使い蓄財に励んできたのを承知しています。国民向けに表向きは徹底調査を指示していますが、これらの問題の真相究明は下手をすると「パンドラの箱」を開けることになり、個別の追及は結局はうやむやにされる公算が大きいと思います。カラ副大統領も、「パナマ文書」に登場したインドネシアの個人や法人には違法性は全くないと擁護しています。さらに現地報道によれば、昨年5月ごろには主要20カ国・地域(G20)の財務当局間の情報交換を通じて、「パナマ文書」に掲載されたインドネシア人の存在は把握していたものの、税務当局内での調査は進んでいないとされ、調査自体に乗り気でない姿勢がうかがえます。

◆外国企業からの徴税も強化

さて、経済低迷により税収不足に悩む政府は、2016年度の修正予算を編成しています。経済減速に直面した15年度も予算案は意欲的な歳入・歳出目標を掲げましたが、歳入(税収)不足となり財政赤字が膨らみました。16年度も同様に意欲的な数字を計上、歳入面では前年度比30%増という非現実的な目標であったことから、第1四半期を経過した時点で税収は前年度比をも下回る194兆ルピアで、目標1360兆ルピアに対しての進捗率は14%と低迷しています。

政府側も税収不足のため、自国民の富裕層はもとより、外国企業(含む日本企業)の約2千社が過去10年にわたり法人税を納めておらず国庫の損失額は推定375億ドルに上ると発表、新たな標的にして徴税強化への動きを強めています。

余談ながら、税務官には当年度の徴税目標額が課されており、目標が達成できない場合は報酬(基本給+諸手当)のうちウェート配分の大きい諸手当から自動的に25%カットされることから、目標達成に必死に取り組むことになります。政府は従来、経済低迷下にあっても、遅れている道路、港湾などのインフラ整備を進めていくため積極的な財政出動を行ってきましたが、ここにきて修正予算案では46兆ルピア(35億ドル)を削減する方針を固めているようです。

◆法案成立に躍起

このように苦しい財政状況のなかで、政府が年内成立に向けて躍起になっているのが、タックスアムネスティー(租税特赦)法案です。脱税者を罪に問うことなく、重加算税も課さず納税額も大幅に減額して国外財産を国内に回帰させる租税特赦は、これまで世界ではフランス、イタリア、ロシア、インド、アイルランドなどで実施され、イタリア、インド、アイルランドでは成功したと言われています。

インドネシア政府もこの法案成立により、シンガポールなどにある国外財産560兆ルピア(420億ドル)が国内に還流されるとともに税収も46兆ルピア増加すると見込んでいます。

政府にとっては「パナマ文書」で名前が明らかになった大物を個別に追及するよりも今国会で租税特赦法案を成立させ、インフラ整備資金の原資になりえる巨額の国外資産の国内回帰と税収増を果たして、大局的に国益の観点からこの問題を決着させていくことを優先しているようです。

ジョコ大統領は、国会での法案成立が難しい場合には大統領令を出してでも目的達成すると発言し、やる気満々です。無用な争いを避けるジャワ出身のジョコ大統領の大いなる知恵であり、インドネシア的な解決策に見えます。

コメント

コメントを残す