п»ї 日本も「核削減」 無策でたまるプルトニウム 『山田厚史の地球は丸くない』第121回 | ニュース屋台村

日本も「核削減」 無策でたまるプルトニウム
『山田厚史の地球は丸くない』第121回

7月 20日 2018年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

核兵器はもたないことを世界に宣言しながら原爆6千発分のプルトニウムをため込んでいる日本。使用済み燃料からプルトニウムを抽出することを米国が日本に認めてきたことで可能だった。

米トランプ政権で雲行きが変わった。北朝鮮が「核削減」を迫られているのと同様に、日本も核兵器の原料になるプルトニウムを削減することを迫られている。政府は頭を抱える。削減の方策がないからだ。

◆「持てるのに持たない一等国」

なぜ日本はプルトニウムをため込んでいるのか。一つの答えが「潜在的核保有国」というひそかな自負だった。唯一の被爆国として核兵器は持たない。だが、その気になったらいつでも作れる。そんな立場に日本はいたい、ということだ。

戦後、核を持てるのは戦勝国だけ、米国に次いでソ連、そして英国、フランスと続き、中国まで保有するようになった。敗戦国であるドイツ、イタリア、日本にその権利はなく、ひたすら「核を持たない」を国是に掲げた。

そうした建前とは裏腹に、戦勝国主導の戦後秩序に不満を募らせる人々の中には、潜在的核保有国として日本の存在感を示したい人たちがいた。核保有を否定しながら「核を保有してこそ一等国」という暗い願望がナショナリズムと絡み、プルトニウムにこだわった。

こう指摘すると、政府(とりわけ外務省)は「そのようなことはない。日本のプルトニウムには明確な使い道がある」と主張するが、それは表向きの建前論のようだ。

筆者は10数年前、核燃料再処理工場が青森県六ケ所村に建設が始まった時、経済産業省の高官に「抽出されるプルトニウムは使い道がない。どうするのか」と尋ねたことがある。高官はオフレコを前提に「持っているということは、その気になれば核兵器を作れる技術が日本にある、ということを示唆する大事なカードという考えがある」と語った。首相になる前の安倍晋三などが「戦後レジームからの脱却」を叫び、「核武装論」さえ自民党の一部にくすぶっていた。米国は日本に核武装を認めない。「持てるのに持たない一等国」という屈折した自負心がプルトニウム貯蔵の裏に潜んでいた。

日米原子力協定が17日、発効後30年の満期を迎え、自動更新になった。この協定は、米国が日本に原子力技術を供与する見返りに日本は原子力を平和利用に限定することを約束するものだ。この中で日本は使用済み燃料からプルトニウムを抽出することが認められている。非核保有国で認めれているのは世界に例がない。テロリストにプルトニウムが渡る危険性や核拡散防止の観点からプルトニウムは厳重に管理されている。

日本だけが認められてきたのは、緊密な日米関係の証しと説明されてきたが、日米安保体制で米国の核の傘に組み込まれた日本が、米国の意に背いて核武装することはない、と米国は見ていたからだろう。

◆破綻した夢の再処理計画

トランプ大統領の登場で、この関係が微妙に変わってきた。

今月に期限を迎えた日米原子力協定を巡り米国は日本にプルトニウムの削減を求めてきた。協定の改定が模索されたが、折り合いがつかず、自動延長となった。日本が特例とされるこれまでの協定が続く、と見るのは甘い。自動延長は、一方の国が停止を宣言すれば6カ月後に破棄されることになっている。

米国は、いつだった日本に「プルトニウム抽出禁止」を突き付けることができる。

「良好な日米関係からそのような事態は考えられてない」と政府は言うが、ディールを好むトランプは日本に与えた「優遇」を対日交渉のカードに使うのでは、という観測が広がっている。

プルトニウム抽出を止められたら、日本の原子力行政は土台から崩れる。
米国の要請を受け、政府は7月3日に閣議決定したエネルギー基本計画に、原案にはなかった「プルトニウム削減」を盛り込んだ。日本はため込んでいる、という国際世論を無視できなくなったからだ。菅官房長官は、記者会見で「プルトニウムの利用を進め、回収もコントロールする」と語った。

日本には、フランス、英国の預けてある分を含め47トンのプルトニウムがある。3年後、六ケ所村に再処理工場が完成すれば、毎年最大7トンのプルトニウムが生み出される。抽出したプルトニウムは高速増殖炉「もんじゅ」で燃やすことになっていた。増殖炉の名の通りプルトニウムはウランと一緒に燃やせば、燃やした以上のエネルギーが生まれる、という夢の再処理計画だった。
もんじゅが挫折し、夢は破綻(はたん)した。政府はフランスと共同で高速増殖炉を開発する方針だが、実現の見通しは立っていない。やむなく、ウランと混ぜ合わせ原子炉で焚(た)くプルサーマル方式でプルトニウムを消費することにしているが。原発の多くが止まっている。18基あるプルサーマル炉のうち再稼働しているのは4基だけ。プルトニウムを減らす手立てがない、というのが実情だ。

◆日本の原発行政どん詰まり

政府が描いた核燃サイクルは破綻したのだから、9兆円もの資金がかかる六ケ所村の再処理工場を中止するのが筋だろう。それをやれば政府が失敗を認めることになり、天文学的な数字になる原子力開発予算をどぶに捨てたことが明らかになる。

しかも六ケ所村がある青森県は「再処理を中止するなら六ケ所村に集積している使用済み燃料をそれそれの原発の持ち帰ってもらう約束だ」と主張している。各地の原発は燃料プールなどに使用済み燃料がたまっていて、返還されても収容する場所はない。

プルトニウムの削減は「核のゴミ」である核燃廃棄物の処理という解のない難題へと波及する。
原発の致命的欠陥は、核燃料廃棄物の処理の解決策がないにもかかわらず突き進んだことだった。日本は高速増殖炉で永遠のエネルギーを作る、という夢物語でプルトニウムを蓄え、「潜在的核保有国」を夢見てきた。3・11の事故が全てを覆し、世界は脱原発に舵を切っている。だというのに原子力産業を抱え政府は立ちすくんでいる。命綱であった核燃料サイクルが失敗したことで、日本の原発行政はどん詰まりに立っている。

米国からのプルトニウム削減要求は、アメリカにも頼れない日本原子力行政の孤立化を示している。

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