п»ї オープンダイアローグは日本で広がるのか 『ジャーナリスティックなやさしい未来』第91回 | ニュース屋台村

オープンダイアローグは日本で広がるのか
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第91回

10月 21日 2016年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

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 コミュニケーション基礎研究会代表。就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括。ケアメディア推進プロジェクト代表。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など経て現職。東日本大震災直後から「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。

◆注目集まる手法

10月15日、東京・豊島区で「オープンダイアローグ~日本での展開~」(主催;公益社団法人青少年健康センター)が行われた。コーディネーターはオープンダイアローグを日本で紹介、展開している精神科医で筑波大教授の斎藤環さんで、パネリストとして参加したのが、カウンセリングを日本で初めて事業化したと言われる臨床心理士、原宿カウンセリングセンター所長、信田さよ子さん、オープンダイアローグに近い手法である当事者研究を北海道・浦河町の「べてるの家」で行っている北海道福祉大教授、向谷地生良(むかいやち・いくよし)さん。オープンダイアローグを始めた張本人であるフィンランド・ユバスキュラ大教授のヤッコ・セイックラさんはフィンランドからスカイプで参加した。

統合失調症などの精神疾患を対話だけで直すというこの手法は、昨年、斎藤さんが紹介する本を出版したことにより注目が集まっている。各地でセミナーも開催され、斎藤さん曰く「5万円のセミナーもいっぱいになる」ほどで、この日のセミナーも会費6千円であったが、約400席の会場は盛況だった。

注目の理由は、「対話で急性精神病が改善・治癒する」「薬や入院を極力使わない、反精神医学である」「診断や治療方針に固執しない」「個人精神療法ではなく治療チームが優先である」「治療者全員がセラピストとして平等」など、いくつかのポイントがあり、それらすべてが日本では議論になるほどのインパクトを持つ。

◆希望の光

オープンダイアローグ手法を導入した結果、フィンランドのラップランド地方にある町、トルニオ(人口約2万3千人)では1980年代に約300あった精神疾患者向けの病床数が現在はわずか25に激減した。フィンランドの地方都市ゆえに薬が調達しにくいハンディを克服するため、薬に頼らず治療しようという意思がこの手法に結び付いたとされ、一般的には精神疾患者を「薬を使わず治す」というイメージが夢のような響きを持って伝わっている。

会場には当事者も多く見られ、この手法が希望の光となって受け入れられているのも事実。日本での展開は関係者にとっても、もちろん精神疾患者とともに未来を考える中で薬の副作用に悩まされる事案に直面している私にとっても、やはり希望の光である。

長年のカウンセラー経験を持つ信田さんは、オープンダイアローグには懐疑的に接していたが、実施チームに参加し、実際にやってみると、「手応えありすぎ」と驚いたという。治療チームの関係性も変わり、チーム(仲間)も見えてきた。さらに、信田さんが取り入れてきたJ・L・モレノの心理劇(サイコドラマ)の手法にも似ており、それは即興性や創造性を伴い、心地よい快楽にもつながるとする。今後の広がりに向けて、「経済的基盤」「時間のねん出」「実践の積み重ね」が必要だと指摘した。

当事者研究の先駆者でもある向谷地さんは、国内の3つの精神病院で2年間実施のオープンダイアローグに参加しており、「生きることそのものが対話である」というセイックラさんの考え方と当事者研究との類似性を感じつつ「シンプルすぎて認識しにくい。スーと入ってくる感じ」がその凄さだと言う。「言葉」を小さな輪の中で語っていく、それは希望を語ることであり、そのこと自体で体が整えられていくことを、「べてるの家」で実践している立場であるが、オープンダイアローグの展開は、精神疾患者に関する心のバリアフリーに向けて大きな社会運動のきかっけになるのではないかと期待している、と結んだ(向谷地さんの当事者研究については、別の機会に紹介したい)。

◆公平な情報が行き交う

かくいう私も斎藤さんの本に出合い、コミュニケーションの良質化が就労への確実な道につながると考えていた地点から、オープンダイアローグを融合させ、「オープンコミュニケーション」なるものを考えながら、開かれた対話でコミュニティーを形成し、疾患に関する艱難辛苦(かんなんしんく)とつき合いつつ、社会進出を考えることを目指してきた。

それは、就労移行支援事業所そのものを一つのコミュニティーとして「オープンコミュニケーション化」できないかという考えに結び付き、今も奮闘中である。自由に自分のことを開示できて、それについて話し合えて、その話においては、裁くことも裁かれることも、評価されることもなく、公平な情報が行き交うというコミュニケーションの場である。

これは理想に近いが、このコミュニティーが出来た時、救われる人は少なくないとの確信はある。日々、生きづらさの悩みに接するからこそ、強くそう思う。今回の議論で、大きな考えと方向性では間違っていないことも確認できた。さあ、これからだ、とひとり意気込んでいる。

『ジャーナリスティックなやさしい未来』関連記事は以下の通り
ソーシャルワーカーは誰でもなれる
https://www.newsyataimura.com/?p=5814

■精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
http://psycure.jp/column/8/
■ケアメディア推進プロジェクト
http://www.caremedia.link
■引地達也のブログ
http://plaza.rakuten.co.jp/kesennumasen/

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