п»ї 「硬」「軟」を織り交ぜASEANに接近する中国『ASEANの今を読み解く』第4回 | ニュース屋台村

「硬」「軟」を織り交ぜASEANに接近する中国
『ASEANの今を読み解く』第4回

11月 15日 2013年 国際

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助川成也(すけがわ・せいや)

中央大学経済研究所客員研究員。専門は ASEAN経済統合、自由貿易協定(FTA)。2013年10月までタイ駐在。今年12月に「ASEAN経済共同体と日本」(文眞堂)を出版する。

◆ASEANに期待を裏切られたフィリピン

2012年、東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国のカンボジアは、南シナ海問題を巡る加盟国同士の対立から、ASEAN外相会議で共同声明をまとめることは出来なかった。さらに、11月のASEAN関連会合で、議長国カンボジアがいったんは「ASEANと中国とは、南シナ海問題の国際化に反対することで合意した」と発表したものの、フィリピンやベトナムなど他のASEAN 加盟国にそれを否定されるなど、議長国として失態を演じた。

南沙諸島に対する中国の実効支配の動きを牽制(けんせい)すべく「ASEAN」に期待したフィリピンであるが、その期待を裏切られ、「一つのASEAN」として声をあげるのは困難であることを痛感、自ら動き始めた。

フィリピンは2013年1月、「中国の領有権が南シナ海のほぼ全域に及ぶとする主張は、国連海洋法条約に違反する」として仲裁裁判所に提訴した。オランダ・ハーグでの審理は7月に始まった。結審まで少なくとも3~5年程度は要するとみられるが、提訴によって中国の実効支配の動きに一定の歯止めがかかることが期待されている。

一方、南シナ海問題を国際法廷に持ちこまれた中国は、仲裁手続きを拒否している。ただし、審理は一方が拒否したままでも進められることになる。

仲裁裁判中、中国はフィリピンに対し訴えを取り下げるよう様々な圧力をかけている。中国は今年9月初めに広西チワン族自治区の南寧で開催されていた第10回中国ASEAN博覧会について、当初、アキノ大統領を招待していたが、「より適切な時期に訪問して欲しい」として事実上、招待を取り消した。中国は、アキノ大統領の訪中の条件として、仲裁裁判所への訴えの取り下げを求めていたもようだ。

その結果、フィリピンはドミンゴ貿易産業長官がアキノ大統領に代わって出席している。これら中国のあからさまなフィリピンに対する「嫌がらせ」は、逆に国際社会に対し、自らの「異質性」を知らしめる結果になった。今後、中国は手段を慎重に吟味しながら、水面下でフィリピンに圧力をかけていくであろう。

アキノ大統領が招待を取り消された中国ASEAN博覧会には、タイを含めた「陸のASEAN」からは首相、大統領など国家元首クラスが参加した。具体的には、カンボジアはフン・セン首相、ラオスはトンシン首相、ミャンマーはテイン・セイン大統領、タイはインラック首相、ベトナムはズン首相である。一方、「海のASEAN」からは、シンガポールはテオ副首相、他の国々は経済閣僚レベルにとどまっている。「海のASEAN」は中国と一歩距離を置いている。

2013年、議長国は「陸のASEAN」カンボジアから南シナ海南沙諸島の当事国でもある「海のASEAN」ブルネイに移った。議長国就任前の2012年8月、中国の楊潔?外相(当時)がブルネイを訪問した。これに対し、米クリントン国務長官(当時)は翌9月に訪問した。日本の岸田文雄外相もブルネイが議長国になって間もない2013年1月に訪問、「ASEAN議長国としてのブルネイのリーダーシップに期待する」旨述べるなど、2012年の教訓から議長国に外交攻勢をかけている。

◆「良き隣人」としてASEANに接近する中国

中国は2013年に入り、フィリピン以外の加盟国には協調姿勢を示す一方、フィリピンに対しては強硬姿勢で臨み、孤立化を狙う。第10回中国ASEAN博覧会での対応もその一環。領有権問題について中国は、これまで南シナ海での紛争を未然に防ぐ法的拘束力を有する「行動規範」の策定に関し、自らの活動を束縛しかねないことからあいまいな態度を取り続けてきた。しかしここにきて、同規範策定協議に柔軟な姿勢を示すなど態度を豹変(ひょうへん)させている。

また、2012年の外相会議で南シナ海問題に関しフィリピンと共同歩調を取ってきたベトナムを、李克強首相が10月の東アジアサミットに合わせて訪問。海上共同開発、インフラ整備、金融システム整備実施に向け作業部会の創設を提案した。今年6月のベトナムのサン国家主席の訪中以降、中国とベトナムは急速にその距離を縮めている。

また、ASEAN側で中国との調整国の任に就いているタイにも接近している。

インラック政権は、地方の所得向上策として肝いりで導入した実質的なコメ高価買い取り政策「コメ担保融資制度」により、国際市場に売却出来ないコメの在庫が大量に積み上がった。2012年には長年維持し続けてきた「世界最大のコメ輸出国」の地位から転落した。また、同制度の実施により急速に財政が悪化するなど、インラック政権に対する野党の格好の攻撃材料になっている。

中国はこれらタイが抱える問題に着目、李克強首相とインラック首相はタイ産米を5年間にわたって毎年100万トン購入することで合意した。タイのコメ担保融資制度導入前のコメ輸出量は年間約1000万トンであったが、その1割を中国が購入する計算になる。また、タイの天然ゴムを年20万トン購入することでも合意した。これらタイ産コメなど農産物は、バーター取引として、現在タイが進めようとしている高速鉄道建設費用の対価の一部に充てる方向で交渉が行われている。

このような中国のASEAN接近は2000年前後を思い起こさせる。中国はアジア通貨危機の影響が残るASEANに「良き隣人」として笑顔で接近、中国製品のASEAN市場参入の大きなインフラとなるASEAN中国自由貿易協定(FTA)を実現した。中国の本音を慎重に探る必要がある。

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